肺水腫
呼吸器科
【病態】
肺水腫とは、肺に水が溜まってしまう状態を指します。
肺は、生命を維持する上で非常に重要な臓器の一つで、空気中の酸素を取り込み、体内の不要な二酸化炭素と交換する役割を果たします。しかし、肺水腫になると、肺に溜まった水がこのガス交換の効率を著しく低下させ、呼吸が非常に困難になります。
病気の初期段階では、呼吸数の増加によってなんとかガス交換を行おうとするものの、病状が進行するとそれもままならなくなり、最悪の場合、命を落とすことにもなりかねません。
肺水腫は、その原因によって大きく心原性肺水腫と非心原性肺水腫の2種類に分けられます。
<心原性肺水腫>
心原性肺水腫は、犬では僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症、猫では肥大型心筋症などの心臓の病気が原因となって発生します。
これらの心臓病が進行すると、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を全身に送り出すことができなくなります。一方、心臓に戻ってくる血液量は一定のため、次第に心臓内の血液量が増加して心臓が大きくなり、心臓内の圧が高まります。
そして、心臓は肺から送り込まれる血液を受け入れることができなくなり、左心房(肺からの血液を受け取る心臓の部屋)→肺静脈→肺の毛細血管の順番に圧が上昇し、肺のうっ血が起こって肺水腫を引き起こします。
<非心原性肺水腫>
非心原性肺水腫は、心臓病が関与しない肺水腫であり、肺腫瘍や肺炎、肺の外傷、熱中症、アナフィラキシーショック、過剰な点滴などが原因として挙げられます。
これらの条件が肺に強い炎症を引き起こし、その結果、肺の血管から血液の液体成分が漏れ出し、肺水腫が発生します。
【症状】
肺水腫は軽度の場合と重度の場合で症状が大きく異なります。
軽度の肺水腫の主な症状は以下の通りです。
・元気や食欲が低下する
・散歩に行ってもすぐに疲れて立ち止まり、息切れする
・運動をしていないのに呼吸が速く、荒くなる
・口を開けて、ハッハッという呼吸をする
・咳をする
軽度の肺水腫で命を落とすことはほとんどありませんが、重度になると以下のような危険な症状が現れます。
・歯茎や舌が灰白色〜青紫色に変化する(チアノーゼ)
・お腹を使って苦しそうに呼吸をする
・咳とともに血混じりの泡や粘液のようなものを吐く
・意識レベルが低下する
この状態まで進行すると、適切な治療を行わない限り、多くの場合は死に至ります。状態の改善や肺水腫の進行を防ぐために、速やかに治療を受ける必要があります。
【診断・治療】
肺水腫の診断は、身体検査、レントゲン検査、心臓のエコー検査などの結果を基に総合的に判断します。全身状態が悪化していることが多いため、血液検査も実施されます。
・身体検査:呼吸の様子や呼吸数、チアノーゼの有無、心雑音などを評価します。
・血液検査:全身状態を把握します。
・レントゲン検査:肺水腫の診断に欠かせない検査で、肺に水が溜まっていることの確認や、心臓の大きさの評価を行います。
・エコー検査:肺水腫の多くは心臓病が原因のため、エコー検査で心臓に異常がないかを確認します。
肺水腫の治療は、肺の水を抜き呼吸状態を改善させる治療と、原因疾患(多くは心臓病)に対する治療を同時並行で行います。
まずは利尿剤を用いて、肺に溜まった余分な水分を尿として排出させます。
また、重度の場合には酸素室に入れて、呼吸状態の改善を図ります。
酸素室での治療は通常病院内で行う必要がありますが、最近ではペット専用のレンタル酸素室を提供する会社も増えており、自宅で酸素療法を行うことも可能な場合があります。具体的な方法や必要な設備については、獣医師にご相談ください。
心原性肺水腫の場合は、心臓病の進行を抑えるためにACE阻害剤や血管拡張薬など様々な薬を用います。
一方、肺腫瘍や肺炎が原因の非心原性肺水腫の場合は、抗がん剤や抗生剤での治療が行われます。
【予後】
軽度の肺水腫であれば、原因疾患に対する治療と適切な呼吸管理を行うことで、比較的良好な予後が期待できます。
しかし、重度の肺水腫では、原因となる疾患をコントロールできなければ、酸素療法を行っても呼吸状態が改善せず、命を落としてしまうこともあります。
肺水腫を防ぐためには、原因疾患の早期発見と早期治療が非常に重要です。特に小型犬の心臓病による肺水腫が多いため、注意が必要です。最低でも年に1回は心臓の検査を含む健康診断を受けることで、早い段階から心臓病を治療し、肺水腫の発症をある程度予防することが可能です。
また、心臓病の治療中に愛犬や愛猫の呼吸が苦しそうな場合は、速やかに動物病院を受診することが大切です。早期の対応が、愛犬や愛猫の命と生活の質を守るための鍵となります。