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肘関節形成不全

整形外科

【病態】

肘関節形成不全(ちゅうかんせつけいせいふぜん)は、犬の前足部分の肘関節が成長過程で正常に形づくられず、骨のかみ合わせにズレが生じてしまう病気です。

犬の肘関節は、上腕骨(じょうわんこつ)、橈骨(とうこつ)、尺骨(しゃっこつ)という3つの骨が複雑に組み合わさってできています。
これらがパズルのようにきれいにかみ合うことでスムーズに動くのですが、成長のバランスが乱れると、関節内の一部に強い力が集中してしまいます。

これは単一の病名というよりも、肘の関節を構成する骨の発育異常によって起こる、いくつかの病態を総称した呼び方になります。

特にラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどの大型犬種で多く認められます。
大型犬の子犬の成長スピードは非常に速いです。急激に体重が増加する一方で、骨や軟骨の成長スピードのバランスが崩れやすく、結果として肘の関節に過度な負担がかかってしまいます。
その結果、軟骨がすり減ったり、骨が欠けたりして慢性的な炎症が起こり、痛みの発生や、足を地面につけずに歩く「跛行(はこう)」につながります。

「まだ若いから、一時的な成長痛だろう」「元気に走れているから大丈夫」と様子を見てしまうケースも少なくないかもしれません。
しかし、この病気は、発症後の対応がその後の生涯の歩行に関わることがあるため、早期の発見と適切な治療が重要です。

橈尺骨骨折についてはこちらで解説しています

 

【症状】

肘関節形成不全の症状は、以下のような様子として表れることがあります。

・前足をどこかかばうようにして歩く
・歩くときに頭が上下に揺れる
・前足のつま先を外側に向け、肘を外に開くようにして歩く
・散歩の途中で座り込んでしまう
・寝起きや歩き始めの動作がぎこちない
・肘を完全に伸ばしにくそうにしている
・運動後に、足の引きずりがひどくなる

さらに「数日以上、前足を気にする様子や跛行が続いている」、「前足を触ろうとすると嫌がって鳴く、あるいは逃げる」「両前足の動きがおかしく、歩き方全体が硬くて不自然である」場合は緊急度が高い、すぐに受診すべきサインです。

 

<発症の時期と症状が出やすいタイミング>
肘関節形成不全の多くは、生後数か月から1歳前後の若い時期に症状が出始めます
しかし、若い犬は痛みを抱えていても、元気や食欲自体は衰えないケースが珍しくありません。

以下のような日常的に症状が表れやすいタイミングに注意して観察してみてください。

・お散歩や激しい運動を終えた後
・休んだ後の動き始め
・ジャンプして飛び降りた直後
・急激に体重が増えた時期

また、一時的に歩き方が良くなったように見えても、関節の内部では少しずつ変形が進行している恐れがあります。自己判断で様子見を続けるのは避けましょう。

 

【診断】

肘関節形成不全の診断には、総合的な整形外科検査が重要です。当院では丁寧な問診のもと、以下の検査を組み合わせて状態を把握していきます。

 

歩行観察
実際に歩く姿から、頭の揺れ、前足の着き方、足先の向きなどを観察します。
特徴的な歩行パターンの有無や、両側の肘に問題が隠れていないかを確認します。

 

整形学的検査
前足にやさしく触れ、肘関節の曲げ伸ばしや捻りによる痛みの有無を確認します。
関節の可動域や、腫れ・熱感の有無を確かめます。
原因が肘にあるのか、または肩・手首・首の神経など別の場所にあるのかを識別します。

 

画像検査(レントゲン検査など)
レントゲン撮影により、関節内部の状態を視覚的に確認します。
関節の隙間、骨の変形、関節炎による骨棘(骨のトゲ)などを細かくチェックします。
複数の角度から撮影することで、病変の位置や進行度合いの評価に繋げます。
また、場合によってはCT検査や関節内視鏡検査が必要となることもあります。

 

【治療】

治療にあたっては、一頭一頭の年齢や犬種、現在の体重、症状の重さ、そしてご家庭の生活環境などを総合的に考慮し、より良い治療法を共に考えていきます。
また、単に今の痛みを取り除くだけでなく、将来的に関節炎が進行するのを可能な限り抑えることを目指します。

 

<保存療法(内科的治療・生活管理)>
症状が比較的軽度な場合や、高齢などの理由で手術が難しい場合は、体に負担の少ない保存療法を中心に行うのが一般的です。

お薬の処方:痛みや関節の炎症を抑えるため、消炎鎮痛剤などの薬を処方します。

体重管理:体重の増加は関節へ負担をかけます。食事内容を見直し、適正体重を維持します。

運動量の調整:激しいジャンプやボール投げなどは控え、関節に負担の少ない適切な散歩量に調整します。

住環境の改善:フローリングなどの滑りやすい床は関節を痛める原因の一つです。マットを敷くなどの対策をご提案します。

サプリメントやリハビリ:関節の健康維持をサポートするサプリメントの導入や、無理のない範囲でのリハビリテーション(理学療法)を検討します。

 

<外科治療(手術)>
若齢期に関節内の骨が剥がれている場合や、保存療法では痛みのコントロールが困難なほど負担が大きいときには、画像検査の結果をもとに手術が選択肢に入ります。

一般的な手術では、関節内にある骨や軟骨のかけら、炎症組織を取り除いたり、骨の長さや位置を整えて関節のかみ合わせの改善を目指したりします。

 

【予後】

肘関節形成不全では「無理なく歩ける状態」を目指して病気と上手に付き合っていく必要があります。

関節の変形や関節炎がまだ進んでいない早い段階で発見できれば、痛みのコントロールがしやすく、歩行の負担軽減が期待できます
成長期から適切な体重管理と運動の調整を行い、将来的な慢性関節炎への進行リスクに備えることが大切です。

一方で、若齢期に見られる軽い足の引きずりを見過ごすと、関節炎の悪化につながります。さらに、足をかばって歩くことで、反対側の前足や肩、背中など全身の筋肉や関節にも負担が広がるおそれがあります。
すでに進行している場合は、お薬の継続や定期的な通院、体重管理を組み合わせながら、痛みやストレスの軽減を目指します。

 

<定期的な経過観察の重要性>
特に成長期の犬は、体格や体重が日々刻々と変化し、それに伴い関節の状態や症状も変わりやすいものです。
一度症状が落ち着いたからといって油断せず、定期的に病院で歩き方や筋肉量、関節炎の進行具合をチェックしましょう。

「少し歩き方がおかしい気がするけれど、様子を見て大丈夫かな」と迷われた際は、一度、整形外科診療に対応している動物病院への相談をおすすめします。
当院では、地域に根差した温かい診療を大切にしながら、外部の獣医師とも連携した整形外科診療を提供しています。
愛犬の「歩く・走る・遊ぶ」といった日常の大切な動作を支える手・足について、気になる様子に気づいたら、いつでも当院までご相談ください。

 

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