認知機能不全症候群(認知症)
行動治療科
【病態】
認知機能不全症候群は、いわゆる「認知症」と呼ばれる老化が原因で認知機能が低下し行動の変化が見られる病態の総称です。
高齢になると、脳の中の大脳や海馬といった認知機能を司る部分に進行性の変化が現れ、これが認知症の発症に繋がります。しかし、全ての犬や猫が発症するわけではありません。
過去の調査によると、犬では11~12歳の約28%、猫では11~14歳の約30%で何らかの行動の変化が起きていたとのことです。
また、脳の腫瘍や他の体の病気が原因で、認知症に似た症状が現れることもあります。特に、高齢期では、肝臓や腎臓の病気、内分泌疾患(例えばクッシング症候群)、痛み、または脳腫瘍や循環器系の病気など、中枢神経に関わるさまざまな問題が起こる可能性がありますので、注意が必要です。
【症状】
認知機能不全症候群の主な特徴は、「行動の変化」です。初期には特に記憶障害や学習能力の低下が目立つことが多くあります。
具体的には、以下のようなさまざまな症状が現れます。
<見当識障害>
飼い主さんやなじみのある人、同居動物を識別できなくなることがあります。
また、狭い空間に入って出られなくなる、何もないところをじっと見つめる、ご飯の場所を見つけられないなど、環境を正確に認識することが難しくなります。
これに加えて、トイレの場所を忘れてしまうために粗相が増え、失禁など排泄のコントロールが困難になることもあります。
<社会性の変化>
感情表現が乏しくなり、飼い主さんや他の動物との交流が減少します。普段はおとなしくても、攻撃的な行動をとるようになることもあります。
<睡眠サイクルの変化>
昼夜逆転し、昼間に多く眠り、夜間は活発になります。夜鳴きを伴うこともあります。
<活動性の変化>
さまざまなことに無関心になり、無目的にウロウロする、ぐるぐると回り続けるなどの行動が見られます。
他にも不安が強まり、お留守番が困難になる、または飼い主さんが視界から消えると落ち着かなくなるといった症状が見られます。
【診断・治療】
診断は、他の疾患を除外することが非常に重要です。日常の様子を詳しく伺った後、身体検査や神経学的検査、血液検査、画像検査などを行い、他の可能性のある疾患を除外することにより、診断を下します。
治療や対処法には以下のような方法があり、これらを必要に応じて組み合わせます。
<環境の整備>
徘徊が見られる場合、ベビーサークルを用いて行動範囲を限定する、トイレを身近に設置するなど、犬や猫が生活しやすい環境を整えることが効果的です。
また、外の空気を吸わせたり、日光浴をさせるなど、精神的な刺激を与えることは認知機能の低下を緩やかにする助けとなります。
<内科治療>
抗不安薬の投与や、DHAやEPA、抗酸化作用など認知機能に影響する成分の入ったサプリメントの使用が推奨されます。
<食事>
特定の成分(例えばDHA)を多く含んだフードも有効です。これらの成分は認知機能のサポートに役立つとされ、複数のメーカーから関連製品が販売されています。
【予後】
認知機能不全症候群は、残念ながら完全に治る病気ではありません。老化が主な原因ですので、認知機能不全症候群とうまく付き合っていくことが大切です。
一方で、認知機能不全症候群の背後に他の疾患が隠れている可能性もあるため、愛犬や愛猫の行動に何か変わったことが見られたら、それがただの老化によるものか、他の問題が原因で起こっているのかを正確に判断することが重要です。
このため、何か違和感や変化を感じたときは、決して独断で年のせいだと判断せず獣医師に相談しましょう。