白内障
眼科
【病態】
正常な水晶体は透明であり、外部からの光を屈折させてピントを合わせることで網膜上に結像させるカメラの凸レンズのような機能を持ちます。
白内障とは水晶体タンパク質が加齢性、遺伝性、外傷性、糖尿病などの基礎疾患による代謝性などが原因で不可逆的に変性し水晶体が混濁する疾患です。
【症状】
犬の白内障の初期段階では限られた水晶体が混濁するのみであるため、視覚への影響はほとんどなく、初期の症状もほとんど現れません。夜間など見えにくい時間帯に物に衝突することがあれば、視力低下が疑われ、白内障の兆候である可能性があります。
犬の白内障は混濁した水晶体の範囲によって以下の4つのステージに分類できます。
①初発白内障
水晶体の1割程度に混濁がある状態で、視覚への影響はほとんどありません。
スリットランプと呼ばれる機械を用いて注意深く目の状態を観察しないと診断することが困難であるため、気づかない飼い主様がほとんどです。
②未熟白内障
水晶体の混濁が少しずつ進行し、視界がぼやけたりかすんだりして視覚が徐々に失われていきます。眼球の見た目が白っぽくなるため、多くの飼い主様がこのタイミングで来院されます。
③成熟白内障
水晶体が完全に混濁し、ほとんどの視覚を失います。
④過熱白内障
この段階では、水晶体のタンパク質が完全に変性し、溶け出してしまいます。これにより、水晶体嚢(水晶体を包む袋)が収縮し、目の中に異常な折りたたみが見られるようになります。これは白内障の最終段階であり、この時点で視覚を喪失しています。
水晶体タンパク質が可溶化(溶け出すこと)することで前部ぶどう膜炎を併発していることが多く、この場合は痛みを伴います。
ぶどう膜炎はより緊急性の高い緑内障に移行する可能性もあるため、犬の眼の異変に気づいたらすぐに動物病院を受診することが大切です。
【診断・治療】
犬の白内障の診断は、まず飼い主様から状況をお伺いし、対光反射、威嚇瞬目反応、綿球落下試験などの神経学的検査、視覚の評価を行います。その後、散瞳剤を使用して散瞳させスリットランプを用いて水晶体の混濁度合いを評価します。
治療は、ステージによって異なります。初発白内障〜未熟白内障であれば約1ヶ月ごとに定期検査を行い視覚の状態を評価します。
一方で一度変性し混濁した水晶体は薬で元の状態に戻すことはできません。そのため成熟白内障〜過熱白内障まで進行して視力を失った場合の治療法は外科手術しかありません。手術法は全身麻酔下で角膜を切開し、超音波乳化吸引装置を用いて混濁した水晶体を吸引し、水晶体嚢内に人工の犬用眼内レンズを挿入します。
また、外科手術には、手術部位の感染や炎症、続発性緑内障、網膜剥離、後発白内障などのリスクが伴います。
【予後】
犬の白内障は無治療で放置するとやがて水晶体全体が混濁し、完全に視覚を失います。加えて、白濁化した水晶体内容物が眼球内に漏れ出して、ぶどう膜に炎症を引き起こす可能性もあります。
もし手術を選択された場合は、術後合併症のリスクもあるため定期的に眼球の状態を評価する必要があります。
この病気は、徐々に進行する病気であり、続発する症状をコントロールすることが重要です。