角膜潰瘍
眼科
【病態】
角膜潰瘍は爪で目を引っ掻くなどの外傷、細菌やウイルスの感染による炎症、アレルギー反応、自己免疫疾患など様々な原因によって発生します。
角膜潰瘍の初期段階は角膜損傷から始まります。角膜が損傷した部位に細菌が感染すると、細菌や好中球が産生するタンパク融解酵素 (コラゲナーゼ、プロテアーゼ)によって角膜の融解が始まります。
また、自身の免疫によって細菌の炎症を抑えなければ、角膜の融解を止められず、角膜潰瘍や角膜穿孔 (角膜に貫通した穴が開いてしまう)となります。
さらに細菌が目の中にまで感染してしまうと、失明する危険性もあります。
角膜は外側から、上皮、実質、デスメ膜、内皮という4層構造になっており、角膜潰瘍は病変が4層のどの層にまで達するかで病名が異なります。
表在性角膜潰瘍 (角膜上皮にのみ傷がついている)、実質性角膜潰瘍 (傷が実質にまで及んでいる)、デスメ膜瘤 (潰瘍が重度で角膜深層のデスメ膜にまで到達している)、角膜穿孔 (デスメ膜が敗れた状態。最も深刻)という4つに分類でき、角膜穿孔にまで至ると失明するおそれもあります。
なお、この分類は病変が到達した部位で分けられていますが、難治性角膜潰瘍という病気もあります。難治性角膜潰瘍はボクサーやフレンチ・ブルドッグが好発犬種であり、細菌感染を伴わずに何度も再発してしまうという特徴があります。
【症状】
角膜には知覚神経 (痛みを感じる神経)が分布しているため、角膜潰瘍は非常に強い痛みを伴います。またその他の症状としては、以下が挙げられます。
・目を掻く、壁にこすりつけるような仕草をする
・目の痛みが原因で元気や食欲が低下する
・涙が異常に増える
・白目の部分が赤くなる
・眩しいと感じた時のように目を細める など
【診断・治療】
角膜潰瘍の診断は、飼い主様から犬や猫の様子を聞く問診や、基本的な身体検査を行った後に、目の状態を下記の特殊な機械や染色法を用いて検査することで行います。
まずは、フルオレセイン染色を用いて角膜に傷がついているかを確認します。傷があるとその部分が緑色に染まります。
傷がある場合には、スリットランプという検査器具を使い、病変部の詳細な評価(傷の深さや血管新生の有無など)を行います。
また角膜に細菌感染が疑われる場合は、細菌培養や抗生剤の感受性試験(どの抗生剤が効果的かを判定する)を行います。
角膜潰瘍の治療は、角膜潰瘍になった原因を突き止めてからスタートします。
炎症の程度が重度ではない場合 (表在性角膜潰瘍や実質性角膜潰瘍)はヒアルロン酸入りの点眼薬を用いて疼痛などの症状を和らげ、傷の修復を待ちます。また、細菌感染が起きている場合は抗生剤入り点眼薬を用います。
また、細菌感染が重度の場合やアレルギー反応、自己免疫疾患が原因の場合などは抗生剤やステロイドを内服します。
さらに、角膜潰瘍が重度で角膜穿孔が起こっている場合は、自身の血液から「自己血清点眼」と呼ばれる目薬を院内で作成して処方することもあります (免疫反応が起きにくいよう、自身の血液成分から作成します)。
上記の目薬や飲み薬を用いた治療を1〜2週間ほど行い、改善が見られなければ外科的治療を行います。
外科的治療には、
・角膜切開術 :新たに角膜に傷をつけて、自然治癒力を引き出す
・結膜フラップ、瞬膜フラップ:結膜や瞬膜で潰瘍部分を覆って、傷の乾燥を防ぐことで治癒を促す
・角膜縫合:角膜に開いた穴を縫合するなどの方法があります。
また、難治性角膜潰瘍や角膜びらん (角膜の表面が強い炎症でただれている状態)の治療に関しては犬猫用コンタクトレンズも使用することがあります。
コンタクトレンズを装着することで角膜を保護し痛みを和らげる効果や、さらに傷がつくのを防ぐ効果、創傷治癒を促進させる効果などが期待できます。
【予後】
角膜潰瘍は早期発見・早期治療を行えれば大きな問題となることはありません。
また、角膜損傷や角膜潰瘍の場合は、処方された点眼薬や内服薬で治療を行うことで角膜の傷は修復され、元の状態に戻ることがほとんどです。
一方で、角膜潰瘍が重度の場合や、処方された点眼薬をうまくさせない場合などは角膜穿孔に発展し失明する危険性があります。
普段から愛犬、愛猫の様子を注意深く観察し、何か異変を感じたらすぐに動物病院を受診することが大切です。