前立腺肥大
生殖器科
【病態】
前立腺とは、雄犬と雄猫の膀胱の付け根にある副生殖器で、精液の一部となる前立腺液を分泌します。 この前立腺液は精子を保護し、精子に栄養を与える役割があります。
前立腺肥大は精巣から分泌される男性ホルモン(アンドロゲンなど)の影響で、前立腺が大きくなってしまう病気で、尿道が狭くなり泌尿器系の症状が現れます。
前立腺肥大は雄の生殖器の病気で最も多く、特に去勢をしていない高齢の雄犬(おおよそ10歳ごろから)で問題となります。
前立腺の腫瘍や細菌感染が原因の前立腺炎を除くと、前立腺肥大の多くは良性前立腺過形成によるものです。
この良性前立腺過形成は、「良性」という言葉からも分かるように悪性の腫瘍ではありませんが、精巣から分泌される男性ホルモンの影響で前立腺の細胞が増殖してしまいます。
良性前立腺過形成自体が身体に大きな影響を与えるわけではありませんが、肥大した前立腺が尿道や直腸を圧迫して 排尿困難や排便困難などの症状が現れます。
【症状】
初期の前立腺肥大では症状は見られないことがほとんどです。
しかし前立腺肥大が進行すると、前立腺が肥大して尿道や直腸を圧迫し、以下のような様々な症状が現れます。
・尿に血が混じる
・排尿姿勢をするが尿が出ない
・排便時にしぶる (排便姿勢をとるが便が出ない)
・しぶる影響で便に血が混じる
【診断方法】
未去勢の高齢犬が血尿、血便、排尿障害などの症状を示した場合、最初に考えられる病気は前立腺肥大です。
前立腺肥大の診断は主に、触診、直腸検査、レントゲン(X線)検査、超音波(エコー)検査、尿検査などを行います。
・触診
前立腺を身体の外側から触って、腫れや熱感、痛みなどがないか確認します。
・直腸検査
指を直腸に入れて直腸の閉塞がないかを確認し、直腸越しに前立腺に触って異常の有無を調べます。
・超音波(エコー)検査
前立腺に超音波を当てて、その大きさや内部の状態を詳しく調べます。
・レントゲン(X線)検査
前立腺肥大があれば、レントゲン画像で前立腺が尿道や直腸を圧迫しているかどうかを確認できます。
・尿検査
血尿の有無や尿路感染症の有無を確認します。 尿の見た目が正常でも、尿の中に赤血球や白血球が出ることがあります。
また、前立腺炎の場合は尿中に細菌が混ざることもあるため、その他の疾患を確認するためにも尿検査は非常に重要です。
前立腺肥大以外にも似たような症状を示す疾患を調べるために、血液検査など他の検査を行う場合があります。
【治療方法】
前立腺肥大における治療方法は、症状の重さによって異なります。
・軽度の場合
排尿障害や排便障害が見られない軽度の前立腺肥大の場合、積極的な治療を行わず、定期的な経過観察が推奨されます。
・重度の場合
排尿や排便に障害が見られるような場合は、去勢手術が一般的な治療法です。この手術により、男性ホルモンの影響が低下し、前立腺の肥大がこれ以上進行することを防ぎます。手術後、数ヶ月のうちに前立腺の大きさは徐々に小さくなります。
・高齢で手術が困難な場合
腎臓病や心臓病などの持病を抱えている場合には、去勢手術が実施できないことがあります。そのような場合には、抗アンドロゲン薬(精巣からのテストステロン産生を抑制するとともに、血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑制する)を用いた内科的治療が行われます。
これは症状の緩和を目的とした治療で、去勢手術と同様の根本的な治療効果は期待できませんが、愛犬の状態に合わせた治療選択となります。
いずれの治療法も、愛犬の健康状態や生活環境に合わせて、獣医師と相談の上、最適な治療方法を選ぶことが重要です。
【予後】
前立腺腫瘍や細菌感染による前立腺炎ではなく、良性前立腺過形である場合、排尿障害や排便障害が悪化する前に去勢手術を行えば予後は良好です。
普段から愛犬、愛猫の排尿や排便時の様子をしっかりと観察し、 何か異変を感じたらすぐに獣医師に相談してください。
また、前立腺肥大のリスクを減らすためには、事前の去勢手術が有効です。特に繁殖を検討していない場合は、性成熟を迎える生後半年から8ヶ月頃までの間に、去勢手術を受けることをお勧めします。