クッシング症候群
内分泌科
【病態】
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは何らかの原因で副腎から放出される副腎皮質ホルモンが出すぎてしまう病気です。
副腎とは左右の腎臓のすぐ隣に1つずつある小さな臓器で、生命維持に極めて重要な数種類のホルモンを産生しています。また、副腎皮質とは副腎の外側のことで、コルチゾールをはじめとする副腎皮質ホルモンを分泌します。
コルチゾールは、免疫を司る、身体的・精神的なストレスに反応する、糖分や体内のミネラル量を調節するなど生体の維持に必要不可欠なホルモンです。
コルチゾールの分泌量は、下垂体という脳の一部から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンによって制御され、血液中のコルチゾール濃度が高い時はACTHの分泌が抑えられ、低い時は増えることで、血中のコルチゾール濃度は適切に保たれています。
副腎皮質の機能が亢進する原因としては主に以下の2つです。
・下垂体腫瘍(下垂体性クッシング症候群:PDH)
下垂体に腫瘍が発生し、腫瘍がACTHを過剰に分泌すると、副腎から産生されるコルチゾール量が増加し副腎皮質機能亢進症になります。
・副腎の腫瘍(副腎性クッシング症候群:AT)
副腎が腫瘍化しコルチゾールを過剰に分泌することで、副腎皮質機能亢進症になります。
また、医原性クッシング症候群というコルチゾールと同様の働きをするステロイド薬(プレドニゾロンなど)を長期的に使うことでクッシング症候群になるケースもあります。
【症状】
クッシング症候群に共通する代表的な症状は以下の通りです。
・多飲多尿(水を飲む量が増え、尿量が増える)
・多食
・代謝の関係で、おなか周辺の筋肉が痩せて脂肪がつきやすくなり、肝臓も大きくなるためおなかが膨らむ
・皮膚や毛が薄くなる、抜け毛が増える
・皮膚の石灰化がおこる
下垂体性クッシング症候群では、上記症状に加えててんかん発作や認知症のような症状、視力障害などの神経症状が見られることがあります。
一方で、副腎性クッシング症候群では、副腎腫瘍が腹部の動脈を巻き込むと、出血、塞栓症、さらには突然死などのリスクがあり、非常に危険です。
【診断方法】
クッシング症候群を疑う症状があれば、身体検査・血液検査・尿検査・超音波検査などを行います。
・身体検査:おなか周辺の膨らみ具合や皮膚、毛並みの状態などを確認します。
・血液検査:クッシング症候群を診断するための検査 (ACTH刺激試験、デキサメタゾン抑制試験)や血液の電解質バランスの確認などを行います。
・尿検査:尿比重や尿中コルチゾール/クレアチニン比などを調べます。
・超音波検査:副腎に超音波を当てて、副腎の形やサイズを測定します。
副腎性クッシング症候群の場合、腫瘍の浸潤具合などを評価するために腹部のCT検査が推奨されることがあります。
また、下垂体性クッシング症候群であれば、脳のMRI検査が推奨されます。
【治療方法】
クッシング症候群の治療は、その種類によって異なるアプローチが必要です。
■下垂体性クッシング症候群
・外科手術:腫瘍化した下垂体を切除する手術です。完治する可能性がありますが、実施できる医療機関が非常に限られており、費用も高額になります。
・放射線治療:腫瘍化した下垂体に放射線を当てる治療法です。こちらも実施できる医療機関が非常に限られており、複数回の全身麻酔が必要になります。
・内科治療:トリロスタンなどの副腎皮質ホルモン合成阻害剤を使用します。完治はしませんが、症状をある程度抑えられます。
■副腎性クッシング症候群
・外科手術:転移が見られない場合は、腫瘍化した副腎を取り除く外科手術が第一に推奨されます。
・内科治療:下垂体性クッシング症候群と同様に、トリロスタンなどの副腎皮質ホルモン合成阻害剤を使用します。
■医原性クッシング症候群
原因となっているステロイド薬を少しずつ減薬していきます。
この時、突然休薬すると様々な症状が現れる可能性があるため、少しずつ減薬するのがポイントです。
【予後】
下垂体性クッシング症候群の場合は早期に適切な治療を行えば良好な予後が期待できます。
ただし、下垂体腫瘍のサイズや併発する神経症状の種類によって予後が大きく左右されます。
副腎性クッシング症候群の場合は、転移がない状態で副腎腫瘍を完全に摘出されれば予後は良好です。しかし、転移がある場合や完全な摘出が困難な場合は、予後が不確実になることがあります。
そして、内科治療を選択した場合は、完治は見込めず、症状の管理と緩和を目的とします。この治療では、生涯にわたっての継続的な薬物投与が必要になることがあります。
愛犬・愛猫のクッシング症候群の治療においては、獣医師との連携と定期的な健康チェックが重要です。症状の変化や治療の進行に応じて、治療計画を調整し、愛犬・愛猫の健康を最大限にサポートしましょう。