咽頭気道閉塞症候群
呼吸器科
【病態】
咽頭気道閉塞症候群とは、短頭犬種以外で咽頭気道の閉塞が起こり、いびきや異常呼吸音、睡眠時の呼吸障害などを引き起こす疾患です。
咽頭とは、人でいう「のどぼとけ」と呼ばれる場所に存在する、気管の入り口にあたる部位です。
咽頭気道閉塞症候群では、肥満や喉頭の下降、舌根部の落ち込みなどにより咽頭から気道が閉塞してしまい、呼吸困難や睡眠時無呼吸、異常な呼吸音などが発生します。
犬種としては、ポメラニアン、チワワ、シー・ズー、 ヨークシャー・テリアなどが多く報告されています。
短頭犬種(パグやフレンチブルドッグなど)では、生まれつき鼻腔が狭い、軟口蓋が長くて厚いといった気道の形態的特徴をもっていることが多くあり、これにより様々な呼吸器症状を呈する「短頭種気道症候群」という病態があります。咽頭気道閉塞症候群はこれに非常に近い病態です。
【症状】
咽頭気道閉塞症候群の症状は、咽頭閉塞によって正常な呼吸が妨げられることで現れます。
具体的には以下のような症状があります。
・いびき
・異常呼吸音(「ズー」「ズッ」「ブーブー」「ガーガー」など)
・暑くないのに口を開けてハァハァと呼吸をする
・お腹をベコベコさせて苦しそうに呼吸をする
咽頭気道閉塞症候群を持つ犬は、熱中症になりやすいため、気温や湿度の管理に注意が必要です。
また、人間の睡眠時無呼吸症候群と似た症状を示すことがあり、睡眠中に数秒〜数十秒間呼吸が止まり、その後「カカッ」と言って夜間に何度か突然起きることがあります。重症の場合、そのまま窒息してしまうこともあります。
【診断・治療】
診断は、まず飼い主様に丁寧な問診を行い、病歴を詳しく聴取した後、身体検査を行います。身体検査では呼吸音もしっかりと確認します。
多くの飼い主様が、愛犬の呼吸に異常を感じて来院されますが、数カ月前から突然症状が悪化し、吐き戻しのような症状が見られる場合は、咽頭腫瘍などによる物理的な気道閉塞の可能性も考えられます。
身体検査の後は、頭部や胸部のX線検査、X線透視検査、血液ガス分析などを行い、咽喉頭の状態や気管虚脱、肺水腫の有無などを確認します。
これらの検査により、咽頭気道の構造的または機能的閉塞が確認された場合、咽頭気道閉塞症候群と診断されます。また、同時にその進行度によってステージ分類を行います。
治療はステージ毎によって大きく異なります。以下に各ステージの状態と対策について詳しく説明します。
<ステージⅠ>
いびきは軽度で、興奮した時のみ異常呼吸が見られます。
対策:基本的に経過観察を行いますが、肥満の場合は減量を行います。
<ステージⅡ>
いびきが重度になり、間欠的に睡眠時無呼吸が見られるようになります。また、日中も異常な呼吸が頻繁に見られます。
対策:減量を行い、必要に応じて上気道拡張薬や抗炎症薬を用いて呼吸状態の改善を図ります。さらに、呼吸が苦しそうな場合は、呼吸が安定するまで酸素室に入れることもあります。
<ステージⅢa>
睡眠時無呼吸発作が頻発し、日中の傾眠や生活の質の低下がみられます。
対策:突然死のリスクがあるため、薬を用いて呼吸状態を改善しながら、永久気管切開術(気管に穴を開けて人為的に空気の通り道を確保する)を行うことがあります。
<ステージⅢb>
ステージⅢaに加えて、陰圧性肺水腫や低酸素血症などの生命に関わる重篤な合併症を引き起こしています。
対策:直ちに体を冷やし、酸素室に入れて入院管理を行います。多くの場合、呼吸状態が安定するまで1〜2週間は入院が必要です。
その後、状態が安定したら、ご自宅でレンタル酸素室などを用いて酸素療法を続けていただきます。再発を繰り返し、咽頭気道の閉塞が重度であれば、生活の質を維持するために永久気管切開術を行います。
<共通の対策>
全てのステージにおいて、室内の温度管理が重要となります。
室内は1年を通じて室温23〜25℃、湿度は40%程度を保つことを心がけてください。
また夏場の散歩は、早朝や夕方など日が落ちて涼しくなる時間帯に行うことで、直射日光や高温時のリスクを避けることができます。
【予後】
ステージⅠやⅡの段階では、適切な減量と室温管理を行うことで、比較的良好な予後が期待できます。
ステージⅢaにおいても永久気管切開術により予後良好となりますが、ステージⅢbでは肺水腫や低酸素血症などの生命に関わる合併症が発生しているため、予後は厳しくなります。
咽頭気道閉塞症候群は慢性疾患であるため、減量や治療を行わなければ症状は改善せずに悪化してしまいます。
もし、愛犬の呼吸状態に違和感を覚えた場合は、できるだけ早いタイミングで動物病院を受診してください。