鼻腔内腫瘤状病変
耳鼻科
【病態】
「鼻腔」は鼻の中、「副鼻腔」はその奥のおでこ内部にある空洞部分を指します。鼻腔内腫瘤とは、鼻の中やその奥の副鼻腔に発生する腫瘤(できもの)を指す言葉です。
犬や猫の鼻腔内腫瘤はそのほとんどが悪性腫瘍です。腺癌、軟骨肉腫、扁平上皮癌、骨肉腫などさまざまな種類があり、悪性度は種類によって異なります。
たとえば、腺癌や軟骨肉腫は進行が比較的ゆっくりで、転移することはまれです。一方、扁平上皮癌や骨肉腫は進行が早く、全身に転移することもあるため、より悪性度が高いと言えます。
鼻のすぐ近くには目や脳があるため、腫瘍が進行するとこれらの器官を圧迫し、生活の質(QOL)が大きく損なわれる恐れがあります。
【症状】
鼻腔内に腫瘤ができると、以下のような症状が見られます。
・鼻水やくしゃみ
・鼻血
・鼻や顔の変形(鼻筋あたりが膨らむ)
・眼球の突出
腫瘍が大きくなるとこれらの症状がさらに悪化し、特に鼻や顔の変形や眼球の突出が目立つようになります。
また、時間の経過とともに腫瘍が鼻腔の奥や皮膚の方向に浸潤していくことがあります。
そして、脳や眼球にまで達すると、中枢神経症状(ふらつきやてんかん発作、鬱様症状など)や、眼球の痛みが現れ、生活の質(QOL)が著しく損なわれる可能性があります。
また、腫瘍が皮膚を突き破ると、皮膚の出血や壊死が生じることもあります。
【診断・治療】
鼻腔内腫瘤が疑われる場合、まずはレントゲンやCTなどの画像検査と病理組織検査を行い、正確な診断を行います。さらに、全身の状態を確認するために身体検査や血液検査も合わせて実施します。
レントゲン検査では、鼻腔内腫瘤の大きさや悪性腫瘍が他の臓器に転移していないか、骨が破壊されていないかを確認します。
CT検査では、腫瘍が脳を圧迫していないか、リンパ節や肺に転移していないかといった、レントゲン検査では得られない情報を確認することができます。また、鼻腔内腫瘤の外科的切除を計画する際にも、CT検査は重要です。
病理組織検査では、腫瘤の一部を切り取って外部の検査機関で分析し、腫瘤の種類や腫瘍の悪性度を判断します。
病理組織検査は、CT検査で全身麻酔をかける際に同時に行うことが一般的です。
治療法は、腫瘤が良性か悪性か、また悪性の場合はその種類や発生部位によって異なります。
悪性腫瘍の場合、放射線療法(腫瘍に放射線を照射して腫瘍細胞を死滅させる)、外科療法、抗がん剤による内科療法などから治療法を選択します。
特に放射線療法は実施できる医療機関が限られているものの、鼻腔内腫瘍に対しては効果が高いとされています。
鼻腔内の悪性腫瘍は、早期から周囲の骨や組織に浸潤しやすいため、外科的切除を行った後も、放射線療法や内科療法を併用して腫瘍の再発や進行を抑えることが多いです。
【予後】
鼻腔内腫瘍の予後は、腫瘍の種類や進行度合いなどによって異なりますが、一般的には治療を行えば半年から2年ほどの生存期間が見込まれます。
生存期間が短くなるケースには、腫瘍が扁平上皮癌や骨肉腫のように悪性度の高いものである場合や、ステージが進んで骨の破壊や他臓器への転移が認められる場合などがあります。
また、病気の進行につれて鼻水や鼻血が止まらない、皮膚からの出血、脳や眼球の圧迫による症状など、生活に支障をきたすことも増えてくるため、病気とうまく付き合っていく必要があります。
鼻腔内腫瘤は目に見えない部分に発生するため、体表のできものに比べて発見が遅れることがしばしばあります。
鼻水やくしゃみが気になるようになった場合は、他の疾患との区別も必要となるため、早めに動物病院へ相談してください。
また、犬の鼻血は日常生活で見られることは稀であり、鼻腔内腫瘤の可能性が高くなります。早期に受診するようにしましょう。