角膜ジストロフィー
眼科
【病態】
角膜ジストロフィーは、黒目の領域である角膜に、リン脂質、コレステロール、カルシウムなどの成分が沈着し、円形〜楕円形で白く混濁した斑点が現れる病気です。
角膜ジストロフィーの原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因が大きく関与しているとされています。
特に犬では、ビーグル、シェットランド・シープドッグ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シベリアン・ハスキー、サモエドといった特定の犬種では、中年期(おおよそ6歳から7歳)以降に発症する傾向があります。
ただし、これらの犬種に限らず、他の犬種やさまざまな年齢、そして猫においても発症する可能性があります。
斑点の大きさや白濁の程度にもよりますが、一般的には視力に大きな影響を与えることは少なく、直接的に失明を引き起こすことはありません。
また、白濁した部分に炎症が生じることはなく、痛みを伴ったり、目やにや涙が増えたりすることもないため、日常生活における犬や猫のQOL(生活の質)に大きな影響は及ぼしません。
【症状】
角膜ジストロフィーにおける白濁は、リン脂質、コレステロール、カルシウムなどの成分が沈着することにより生じ、両目に発生することがあります。時間が経過するにつれて、白濁の数や範囲が拡大することがある一方で、変化がない場合もあります。
この疾患は基本的に無症状であり、白濁が角膜のどの層に発生するかによって、症状に違いが生じます。
角膜は外側から角膜上皮、基底膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮の5層構造になっており、どの層で異常が起こるかによって症状は異なります。
角膜上皮、基底膜、角膜実質で白濁が発生した場合には痛みや炎症は伴うことはほとんどありませんが、一部の慢性経過症例では白濁した周囲の細胞が変性し角膜変性症に発展することがあります。
一方で、角膜内皮で白濁が起こると角膜浮腫に進行し、これにより視力の低下や失明へとつながることがあります。この状態を角膜内皮ジストロフィーと呼びます。
白濁が広がり、目が見えにくくなることで犬や猫が違和感を覚え、目を掻いたり擦ったりした場合には、二次的な角膜炎や角膜潰瘍が発生するリスクがあります。
【診断・治療】
角膜ジストロフィーの診断は、まず飼い主様からの詳細な問診を通じて、犬や猫の目に白く混濁した斑点がいつごろから見られるようになったのか、その数や大きさに変化があるか、また自宅で目を気にしている様子があるかどうかなどを確認します。これらの情報は、角膜ジストロフィーの可能性を考える上で重要な手がかりとなります。
その後、角膜ジストロフィーが疑われる場合、白内障や角膜炎、角膜浮腫、角膜潰瘍など、他の眼の疾患を除外するために眼科的な検査が行われます。これにより、角膜ジストロフィーの診断が確定されます。
角膜ジストロフィーは遺伝的な背景が大きい病気であるため、残念ながら現時点では角膜の白濁を元の状態に戻す治療法はありません。
多くの場合では白濁があっても無症状であり、日常生活において特に問題を引き起こすことはないため、過度に心配する必要はありません。一般的な対応としては、定期的な経過観察が推奨されます。
しかし、犬や猫が目を気にして掻いたり、壁などに目を擦り付けたりするなどの行動を見せる場合は、エリザベスカラーの使用や、発生してしまった角膜炎や角膜潰瘍に対する治療が必要になることがあります。
【予後】
角膜ジストロフィーは遺伝的な要因が原因のため、有効な予防法はありません。
普段から愛犬、愛猫の目を注意深く観察し、少しでも目の様子に異変を感じたら獣医師に相談することが何よりも大切です。
さらに、定期的に眼科検査を含めた健康診断を受けることで、白内障や緑内障といった他の眼の病気は早期に発見し適切な治療を行うことで、進行を遅らせ、症状の改善を図ることが可能です。
そのため、愛犬、愛猫の健康を長期にわたって維持するためにも、半年から1年に1回のペースで動物病院を訪れ、獣医師による専門的な診察を受けることを推奨します。