マイボーム腺炎
眼科
【病態】
マイボーム腺とはまぶたの縁にあり、油分を分泌することで涙の蒸発を防ぎ、眼球表面を乾燥させない役割を持つ分泌腺の一種です。この腺が何らかの理由で詰まり、炎症が起こることをマイボーム腺炎と呼びます。
犬と猫のマイボーム腺炎は、「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」と「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」の二種類に分かれます。
<麦粒腫>
マイボーム腺に主に黄色ブドウ球菌などの細菌が感染して急性炎症を起こしたもので、人でいう「ものもらい」の状態に近い病気です。
<霰粒腫>
マイボーム腺が何らかの原因で詰まってしまい、慢性的な炎症を起こした状態です。
霰粒腫ではまぶたの一部が硬く腫れることもあります。
高齢になると、マイボーム腺の細胞が腫瘍化しまぶたの表面にイボのような突起物ができることがありますが、これはマイボーム腺腫と呼びマイボーム腺炎とは別の病気です。
また、マイボーム腺炎は1つの場所で発生する場合もありますが、同時に複数ヶ所で発生することも多々あります。特にアレルギー体質の犬や猫は発症しやすいことが知られており、アレルギーを持つ場合は注意が必要です。
さらに、高齢の場合や長毛種での発生も多いため、愛犬や愛猫が上記の条件に当てはまる場合は特に気をつけましょう。
【症状】
麦粒腫と霰粒腫のどちらも、初期にはまぶたにニキビのような小さなできものが現れる点で共通しています。
麦粒腫の場合、状態が進むにつれてまぶたの周りが赤く腫れ上がり、痛みを伴い、涙や目やにの量が増えたり、目が赤く充血したりすることもあります。細菌感染が重度になると、まぶた全体が腫れることもあります。
犬や猫が目の違和感や痛みから目を引っ掻いたり、床に擦り付けたりすると、眼球表面に傷がつき、角膜炎や角膜潰瘍などを併発します。
一方、霰粒腫は麦粒腫ほど痛みを伴うことは少なく、まぶたの裏側に白っぽいニキビのような硬いできものが現れるのが特徴です。これは、マイボーム腺が詰まり慢性的な炎症を引き起こしている状態です。
【診断・治療】
マイボーム腺炎の診断に必要な特別な検査というものはなく、患部の状態をよく観察する視診のみで判断されます。
ただし、マイボーム腺炎が引き起こす他の目の病気、例えば角膜炎や緑内障の有無を確かめるために、角膜染色や眼圧検査を含む詳しい検査を実施することもあります。
特に、症状が再発する場合は基礎疾患の存在を疑って、アレルギー検査や内分泌検査などの追加検査が必要になることがあります。
マイボーム腺炎の治療方法は、麦粒腫と霰粒腫で大きく異なります。
麦粒腫の場合は細菌感染が原因であるため、抗菌剤を用いた点眼薬や眼軟膏、さらには内服薬による治療が行われます。基礎疾患の有無や発症してから治療までの期間にもよりますが、おおよそ1週間程度で症状の改善が見られます。
一方、霰粒腫の場合は、マイボーム腺の詰まりが原因ですので、抗菌剤だけでは十分な治療にはなりません。
ここで必要となるのは、結膜を切開して溜まったものを取り除く外科手術や、マイボーム腺と導管、開口部を含めて霰粒腫を切除する手術です。
手術の後は細菌の二次感染を防ぐために抗菌剤を投与し、目を保護するためにエリザベスカラーを装着することがあります。
また、角膜炎や結膜炎などを起こしている場合は抗炎症剤を使用することもあります。他にも併発している病気があれば、それらの治療も同時に行います。
【予後】
マイボーム腺炎に有効な予防法はありませんが、アレルギーや内分泌疾患などの基礎疾患を持つ場合は、普段から目の状態に注意することが大切です。
マイボーム腺炎は命に関わるような重篤な病気ではありませんが、放置することで症状が悪化して治療期間が長引き、最終的には手術が必要になることもあります。
まぶたの周辺にニキビのようなものやしこりが見られる場合、または犬や猫が目を気にするような仕草を見せたら早めに動物病院を受診しましょう。早期発見と適切な治療により、マイボーム腺炎の影響を最小限に抑えましょう。