自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)
眼科
【病態】
自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)は、目の表面の傷がなかなか治らない、または治っても再び剝がれてしまうことを特徴とする病気です。目の表面を覆う膜である角膜上皮が再生しても、角膜実質に正常に付着しないために発生します。
特にボクサー犬に多く見られることから「ボクサー潰瘍」と呼ばれることもあります。
自発性慢性角膜上皮欠損の原因として、遺伝的な要因や自己の免疫の関与などが考えられますが、正確な原因はまだ解明されていません。
角膜は眼球の最前面を覆い、外側から角膜上皮、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮の4層で構成されています。
通常、角膜に傷がついた場合、角膜上皮は自然治癒力により再生し、再生した細胞は角膜実質としっかりと接着して元の状態に戻ります。
しかし、自発性慢性角膜上皮欠損ではこの接着がうまく行われないため、容易に剥がれてしまい、繰り返し傷が開くことがあります。
角膜は眼球表面を保護する役割を持つため、自発性慢性角膜上皮欠損によって角膜の傷が治らないと、角膜潰瘍(角膜の障害が角膜実質層にまで及んだ状態)へ進行し、治療期間が大幅に伸びてしまいます。
【症状】
自発性慢性角膜上皮欠損の症状は角膜炎や角膜潰瘍と類似しており、目の痛み、目をしょぼつかせる(羞明)、涙が多くなる、目やにの量が増える、目の充血、角膜が白く濁るなどが一般的に見られます。
通常の角膜炎や角膜潰瘍であれば、抗菌薬やヒアルロン酸を含む点眼薬による治療により1〜2週間程度で改善します。
しかし、自発性慢性角膜上皮欠損の場合は長期間に渡って改善が見られず、症状が治ったとしてもすぐに再発するという特徴があります。
【診断・治療】
角膜炎や角膜潰瘍が治りづらい場合、自発性慢性角膜上皮欠損だけでなく、その他の様々な原因も考えられます。
そのため、現在の体の状態を正確に把握するために、目の詳細な検査だけでなく血液検査や内分泌検査などを行うことがあります。
眼科検査では、フルオロセイン染色試験が一般的に行われます。フルオロセインは、角膜に傷がある場合にその部分を明るく緑色に染める特別な染色液です。
自発性慢性角膜上皮欠損の場合、フルオロセインが角膜上皮と角膜実質の隙間に浸透して広く染色されることが確認でき、これにより正確な診断が可能になります。
さらに、スリットランプ検査という高度な光学機器を用いた検査で、角膜の状態を詳しく観察します。
自発性慢性角膜上皮欠損の治療は、角膜潰瘍に対する点眼治療だけでは治癒は期待できないため、外科手術が基本となります。
具体的には、角膜表面に微細な格子状の傷をつけ角膜上皮の再生を促す格子状角膜切開術や、眼科用のダイヤモンドバーを用いて角膜表層の一部を削り取り、健康な角膜細胞が成長しやすい環境を作り出す手術を行います。
これらの手術では、あえて角膜に刺激を与えることで角膜上皮を再生させ、角膜上皮と角膜実質の接着を促します。
さらに、一時的に角膜の傷を保護するために、医療用のコンタクトレンズを使用することもあります。
手術後は動物が目を擦らないようにエリザベスカラーを装着し、点眼薬などで術後管理を行います。
【予後】
自発性慢性角膜上皮欠損は正確な診断と適切な治療が重要です。角膜潰瘍に比べ治療が難しく、通常の点眼薬による治療だけではなかなか治らないことも多くあります。
外科手術を行った場合でも、治癒するまでに2週間〜1ヶ月以上かかることもあり、根気よく治療を継続することが大切です。
角膜炎や角膜潰瘍の治療を行ってもなかなか改善しない場合は、自発性慢性角膜上皮欠損の可能性があるため、是非一度当院にご相談ください。