猫の角膜黒色壊死症
眼科
【病態】
角膜黒色壊死症、または角膜分離症とも呼ばれるこの病気は、角膜が黒色に変色し、壊死する重篤な状態を指します。
角膜は目の一番外側に位置する透明な組織で、光を取り入れ、屈折させて水晶体とともにピントを合わせる役割を持っています。このため、角膜の健康は視力を維持する上で極めて重要です。
角膜は外部環境と直接接触しているため、傷つきやすく、乾燥やさまざまな外的要因によるトラブルが発生しやすい組織です。
角膜黒色壊死症は通常、角膜潰瘍などの他の角膜病変が原因で発生することが多く、猫ヘルペスウイルス感染症や眼瞼内反症(まぶたが内側に巻き込む状態)などによる角膜への刺激が関係しています。
ある特定の猫種、特にペルシャ、ヒマラヤン、シャムなどがこの病気にかかりやすいとされていますが、基本的にはどの猫でも発症する可能性があります。
【症状】
角膜黒色壊死症の特徴的な症状として、角膜中央部に暗褐色から黒色に変色した病変が見られます。
形状はさまざまで、小さな斑点から、角膜の半分以上を覆うような大きなものまであります。
また、この病気は痛みを伴います。その痛みが原因で涙や目ヤニが増えたり、目をショボショボさせることがあります。
さらに、角膜黒色壊死症は細菌感染が併発すると、角膜穿孔と呼ばれる、角膜に穴が開く非常に重篤な状態に至ることがあります。未治療の場合、失明する危険性もあります。
【診断・治療】
診断は、角膜の中央付近に見られる黒い斑点を確認した際には角膜黒色壊死症を疑います。
また、この病気の背後には、ヘルペスウイルス感染症や眼瞼内反症などの基礎疾患が隠れている可能性があるため、これらの疾患の存在もしっかりと調査する必要があります。基礎疾患を見落とすと、症状の再発のリスクが高まります。
治療は、まず潜在的な基礎疾患に対処することから始めます。例えば、ウイルス感染が原因である場合は抗ウイルス治療を行います。
基礎疾患に対する治療と並行して、角膜黒色壊死症自体の治療も進めます。
<内科治療>
角膜潰瘍の治療として、ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬などが使用されることがあります。これらの治療は、治癒までに時間がかかる可能性がありますが、角膜穿孔を防ぐためには欠かせません。
角膜黒色壊死症の治療としては、ヘルペスウイルスが関与していることが多く、内科的にファムシクロビルなどの抗ウイルス薬を用いて、自然と脱落を待つケースもあります。
角膜黒色壊死症は自然治癒することもありますが、完全に治るまでには数ヶ月から数年という長い時間を要することがあります。したがって、内科治療を選択した場合は、特に角膜穿孔に至らないように細心の注意を払うことが求められます。
<外科治療>
壊死している部分(黒く変色した部分)の切除を行います。この手術は再発のリスクを伴いますが、進行を防ぎ視力を保つために必要な場合があります。
【予後】
角膜黒色壊死症の治療においては、壊死病変が消失すれば特に大きな合併症を引き起こすことなく、予後は一般的に良好です。
ただし、角膜黒色壊死症は再発しやすい病気であるため、病変が一度消失した後も警戒を怠らず、定期的なフォローアップが必要です。特に、この病気の背景に基礎疾患がある場合、その基礎疾患の治療をしっかり行うことが非常に重要です。