犬がすぐに疲れるのは年齢のせい?|心臓や肺の病気が隠れていることも
コラム
「最近、散歩の途中で立ち止まることが増えた気がする」「前は元気いっぱいだったのに、すぐに疲れてしまうようになった」
そんな愛犬の変化に気づかれた飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
その原因は、年齢による体力の低下や気まぐれといった一時的なものかもしれませんが、心臓や肺などの内臓の病気が関係している可能性も考えられます。
今回は、犬が疲れやすくなったときに考えられる、心臓や肺に関わる病気について解説します。
■目次
1.正常な運動能力と異常のサインの見分け方
2.疲れやすさの背景にある心臓や肺の問題
3.こんな症状があったら要注意|緊急受診の判断基準
4.動物病院での検査と診断
5.心肺機能低下との上手な付き合い方
6.まとめ
【正常な運動能力と異常のサインの見分け方】
「うちの子も年だから、あまり歩かなくなったのかもしれません」
診察の際、飼い主様からこうした言葉をお聞きすることがあります。
確かに、年齢を重ねた犬は、若い頃に比べて運動量が少しずつ減っていくのは自然なことです。
しかし、その疲れやすさが本当に加齢によるものなのか、それとも体のどこかに不調を抱えているサインなのかを見分けることは大切です。
年齢による体力の低下は、あくまで緩やかに進むのが一般的です。
たとえば、散歩の距離が少しずつ短くなったり、休憩の回数が徐々に増えたりするのは、ある程度予想される変化といえます。
しかし、ある日を境に急に歩きたがらなくなる場合や、ほんの数分の散歩で呼吸が苦しそうになるような場合は、加齢とは異なる原因を疑う必要があります。こうした急な変化は、病的な疲労感や隠れた疾患のサインかもしれません。
【疲れやすさの背景にある心臓や肺の問題】
疲れやすさの原因として心臓や肺の機能に問題があるケースが少なくありません。
これらの機能がうまく働かないと、体のすみずみまで十分な酸素が行き渡らなくなり、わずかな運動でも強い疲労感が出てしまいます。
<心臓の病気が関係している場合>
代表的な心臓の病気として、「僧帽弁閉鎖不全症」や「拡張型心筋症」があります。
◆僧帽弁閉鎖不全症
小型犬に多く見られる病気で、心臓の弁がうまく閉まらず血液が逆流してしまう状態です。
その結果、心臓に負担がかかり、全身に十分な血液(=酸素)を送ることができなくなります。これにより、疲れやすさや咳といった症状が見られるようになります。
▼僧帽弁閉鎖不全症についてはこちらで解説しています
◆拡張型心筋症
主に大型犬に多い病気で、心臓の筋肉が弱くなり、血液を全身に送り出す力が低下してしまいます。その結果、運動後に息切れしたり、元気がなくなるといった変化が見られるようになります。
<呼吸器の病気が関係している場合>
呼吸に関わる病気では、「気管虚脱」や「肺水腫」などが知られています。
◆気管虚脱
特にトイプードルやヨークシャーテリアなどの小型犬で多く見られるもので、呼吸の際に気管がつぶれてしまい、酸素をうまく取り込めなくなる病気です。
運動時に「ゼーゼー」と苦しそうな呼吸をしたり、咳が出たりする症状が見られます。
▼気管虚脱についてはこちらで解説しています
◆肺水腫
心不全の結果として肺に水が溜まってしまう状態で、呼吸そのものが非常に苦しくなります。
重度の場合は命に関わることもあるため、早期の発見と治療が重要です。
▼肺水腫についてはこちらで解説しています
【こんな症状があったら要注意|緊急受診の判断基準】
心臓や呼吸器の病気は命に関わることもあるため、早めの対応が何よりも重要です。
特に以下のような症状が見られた場合は、緊急性が高い可能性があるため、すぐに動物病院を受診してください。
・散歩中や軽い運動の最中に、呼吸が明らかに苦しそうになる
・舌や歯ぐきが紫色や青っぽい色に変わっている(チアノーゼ)
・動きが極端に鈍くなる、ふらつく、倒れてしまう
・夜間に呼吸が浅く早くなり、苦しそうにして眠れない
・咳が頻繁に出る(特に寝起きや運動後に多い)
・呼吸が荒いのに体温が低い、または逆に高くなっている
こうした症状が出ると、どうしても焦ってしまい、獣医師にうまく伝えられないこともあります。そんなときに役立つのが、スマートフォンなどでの動画記録です。
普段の様子や、症状が出ているときの行動をあらかじめ撮影しておくことで、診察の際に獣医師がより正確な判断をしやすくなります。
呼吸の速さ、咳の種類、動作の異常などは、言葉で伝えるよりも映像で見てもらうほうがわかりやすいケースも多くあります。
【動物病院での検査と診断】
愛犬の体調に気になる変化があったとき、大切なのは原因をはっきりさせることです。
適切な検査を行うことで、必要な治療へ早くつなげることができ、進行を防ぐことにもつながります。
問診を通して、「いつから症状が見られるようになったか」「どんな場面で悪化するか」「日常生活にどんな変化があったか」などをお聞きします。
散歩の途中で立ち止まるようになった、階段を上がりたがらない、興奮した後に咳が出るようになったなど、些細な情報が診断の大きなヒントになるのです。
<主な検査>
問診の後は、以下のような検査が必要に応じて実施されます。
・聴診:心音・肺音の確認
・レントゲン検査:心臓や肺の形、状態を確認
・心電図:心拍のリズム異常を調べる
・心臓エコー検査:心臓の動きや血流の異常を詳しくチェック
例えば僧帽弁閉鎖不全症では、心臓の弁から血液が逆流している様子がエコーで確認されることがあります。また、気管虚脱であれば、呼吸時に気道がどの程度つぶれているかが画像で把握できます。
病気を早い段階で見つけることができれば、内科的な治療や生活環境の見直しによって、症状の進行を抑えることが可能です。
愛犬のQOL(生活の質)を守るためにも、「様子を見ようかな」と先送りせず、不安があるときは早めの受診をおすすめします。
【心肺機能低下との上手な付き合い方】
心臓や肺の疾患がある場合、日常生活に気を配ることで、愛犬の負担を減らすことができます。
◆運動は「無理なく」がポイント
まず大切なのは、愛犬にとってちょうどいい運動量を見つけることです。
お散歩は、短時間でも構いません。特に気温や湿度が高い日は無理をさせず、涼しい時間帯に、ゆったりと歩く程度でも十分です。途中で疲れた様子を見せたら、すぐに休憩をとるようにしましょう。
◆お薬はしっかりと継続
治療の多くは、お薬による内科的な管理が中心になります。
たとえば、心不全の進行を抑える薬や、肺の炎症をやわらげる薬などが処方され、症状に応じて複数の薬を併用するケースもあります。
お薬を忘れずに飲ませることがとても大切ですので、カレンダーに印をつけたり、スマートフォンのアプリで服薬を管理したりするのも一つの方法です。
◆生活環境を見直してみましょう
愛犬の体にやさしい環境を整えることも、心肺への負担を軽くするうえでとても大切です。
・室内の温度と湿度は、快適で安定した状態を保つようにしましょう。
・大きな声や来客などで強い興奮を招かないような工夫も効果的です。
・ソファやベッドに登り降りするのがつらそうな場合は、ステップを用意したり、高さを調整したりすることも検討してみてください。
こうした日々のちょっとした配慮が、愛犬の呼吸や循環への負担を軽減し、生活の質(QOL)を保つ大きな力になります。
【まとめ】
「最近、すぐに疲れてしまう」「お散歩の距離が短くなった気がする」そんなちょっとした変化は、愛犬の体からの大切なサインかもしれません。
年齢のせいだと思って見過ごしてしまいがちですが、日々の小さな変化に気づいてあげることが、健康を守る第一歩になります。
心臓や肺の病気は、早い段階で見つけることができれば、進行を防ぎながら、これまで通りの生活を送れる可能性も十分にあります。
当院では、まだ症状が出ていない段階からの健康チェックや、心肺機能に関する定期的な検査も行っておりますので、「なんとなく気になるな」「ちょっと様子が変かも」と感じたときには、どうぞお気軽にご相談ください。
飼い主さんと動物たちのえがおのために
京都府長岡京市「乙訓どうぶつ病院」
~乙訓地域(長岡京市、向日市、大山崎町)、大原野、伏見、久御山、島本町~
診療案内はこちら