急性胃腸炎
消化器科
【病態】
急性胃腸炎は、ウイルス、細菌、寄生虫、薬物などのさまざまな原因によって胃腸の粘膜に炎症が起こり、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が一時的に現れる病気です。私たち人間にとっては非常に馴染み深い病気ですが、実は犬や猫でも頻繁に見られます。
犬や猫は何でも口に入れてしまう傾向が強いため、不衛生な食べ物などから細菌やウイルスを取り込むことが多いです。
犬と猫の急性胃腸炎の主な原因としては、以下のものが挙げられます。
・ウイルス性(犬パルボウイルス、ジステンパーウイルス など)
・細菌性(クロストリジウム属、サルモネラ属菌 など)
・寄生虫性(回虫、コクシジウム、ジアルジア など)
・食事性(不衛生な食べ物、人間の食べ残し、脂っこい食べ物、過敏症 など)
・薬物性(非ステロイド性抗炎症剤 など)
・中毒性(洗剤、人の薬、アルコール、植物 など)
さらに、慣れない環境(ペットホテルや知人の家に預けられた時など)で強いストレスを感じると、消化機能を支配する自律神経の働きが乱れて下痢をすることがあります。これも一種の急性胃腸炎と言えるでしょう。
【症状】
犬と猫の急性胃腸炎の主な症状は以下の通りです。
・腹痛
・下痢
・嘔吐
・元気、食欲の低下
・お腹がキュルキュル鳴る
・下痢嘔吐による脱水症状
激しい下痢や嘔吐が続くと、粘膜が傷ついて糞便や嘔吐物に血が混じることがあります。
「急性」と名が付くように、昨日の夜まで元気だったのに翌日の朝に突然激しい下痢や嘔吐をするというパターンが多いです。
一方で、治療が必要ないほど症状が軽く、元気や食欲も保っている場合もあります。これは、原因となる病原体や個体差によって症状が大きく異なるためです。
【診断・治療】
下痢や嘔吐、腹痛はさまざまな疾患によって引き起こされるため(例:異物誤飲、腸閉塞、アジソン病など)、「消化器症状が見られるから急性胃腸炎」と簡単に診断することはできません。
よって、症状に応じた適切な検査を行い、急性胃腸炎以外の病気を否定する除外診断を行います。
主な診断方法とチェック項目は以下の通りです。
・腹部触診(腹部にしこりがないか、腹部圧痛が見られないか)
・糞便検査(細菌や寄生虫が検出されるか)
・血液検査(全身の状態や炎症性マーカーの上昇、脱水などが認められるか)
・ウイルス検査(主にパルボウイルス、ジステンパーウイルスが検出されるか)
・超音波検査(異物や腸閉塞、消化管腫瘍などが認められないか)
・X線検査(腹水の有無や腹部臓器に異常が認められないか)
血液検査などの詳しい検査は、症状が軽度で元気食欲もある場合には行いませんが、嘔吐や下痢が頻回、または状態の悪い場合などには必要に応じて実施します。
これらの検査で他の疾患の可能性が低いと判断された場合は、急性胃腸炎として治療を行います。
急性胃腸炎のほとんどは自然に治るため、症状に合った対症療法を行います。
胃腸の負担を和らげるために一時的に絶食し、その後消化の良い食事を少量ずつ回数を増やして与えます。また、下痢や嘔吐が多く脱水傾向にある場合には、皮下点滴を行い水分やミネラル分の補給をします。
その他、症状に合わせて以下の薬を用いることがあります。
・消化管運動促進剤
・制吐剤
・抗生剤
・下痢止め剤(止瀉薬)
・消化管保護剤
・プロバイオティクス(乳酸菌など)
通常の急性胃腸炎では入院や手術などが必要になることはほとんどありません。しかし、症状が重度の場合や、急速に悪化する可能性がある場合には、入院治療が必要になることもあります。
【予後】
通常の急性胃腸炎であれば、対照療法により2〜3日で症状は改善します。しかし、改善が見られない場合には、他の病気の可能性も考え、さらに詳しい検査を行う必要があります。
特に子犬や老犬が急性胃腸炎になると、重度の脱水で命を落とすこともあるため、下痢や嘔吐の症状が見られた場合は、すぐに獣医師の診察を受けてください。
急性胃腸炎を予防するために、ゴミ箱や生ゴミを漁らせない、油分の多い人間の食事は絶対に与えない、ストレスのかかる環境を避けるなどの点に注意しましょう。
異物誤飲や腸閉塞などの重篤な疾患も急性胃腸炎と非常に似た症状を示します。そのため、下痢や嘔吐が見られたら、自宅で様子を見るのではなく、すぐに動物病院を受診しましょう。