猫エイズによる呼吸器感染症
呼吸器科
【病態】
「猫エイズ」と呼ばれるこの病気は、正式には猫免疫不全ウイルス感染症といいます。
猫免疫不全ウイルス(Feline Immunodeficiency Virus:FIV)に感染すると、猫の免疫細胞が徐々に破壊されていき、時間の経過とともに免疫力が低下していきます。そのため、本来であれば自然に治る程度の軽い感染症であっても、重症化しやすくなります。
特に、鼻腔や気管支、肺といった呼吸器系は外部からの病原体にさらされやすく、免疫力の低下とともに感染リスクが高まります。
このような状態では、空気中のウイルスや細菌だけでなく、クラミジアやマイコプラズマなどの病原体による呼吸器感染症(日和見感染症)が発症しやすくなります。
また、猫エイズは数年かけて進行し、無症状のまま過ごす時期がある一方、エイズ関連症候群期(ARC期)や末期に入ると、呼吸器症状を含む慢性的な体調不良が見られることが多くなります。
そのため、猫エイズの進行にともなって呼吸器感染症のリスクが徐々に高まり、重篤化する可能性もあることが、このウイルス感染症の重要な病態的特徴の一つです。
【症状】
<エイズ関連症候群期に現れる呼吸器症状>
FIV(猫免疫不全ウイルス)に感染した猫では、時間の経過とともに免疫力が徐々に低下していきます。
このウイルス自体が肺や気管を直接攻撃するわけではありませんが、免疫の防御機能が損なわれることで、呼吸器に対する抵抗力が弱くなり、二次的な感染症や慢性炎症を引き起こしやすくなります。
特に、マイコプラズマ、クラミジア、猫ヘルペスウイルス、カリシウイルスといった病原体に感染しやすくなり、それらが単独または複数同時に関与することで、症状が慢性化・重症化しやすいのが特徴です。
こうした背景から、FIVに感染している猫では、次のような呼吸器症状が見られることがあります。
・くしゃみや鼻水:ウイルスや細菌による慢性鼻炎によって起こります
・咳:気道の炎症や肺炎が疑われるサインです
・呼吸が浅くなる・速くなる:肺炎の可能性があります
・呼吸時の異音(ゼーゼー、ヒューヒュー):気管支炎や喉の炎症が原因となっていることがあります
・鼻腔内のポリープや腫瘍:鼻づまりのような閉塞感を引き起こします
このように、FIV感染により免疫力が低下した状態では、比較的弱い病原体でも重い呼吸器症状を引き起こすことがあり、注意が必要です。
【診断方法】
FIV感染が疑われる場合、まずはウイルス抗体検査を行い、体内でFIVに対する免疫反応が起きているかどうかを調べます。この検査で陽性反応が出た場合、ウイルスへの感染があると判断されます。
さらに、エイズ関連症候群期(ARC期)に進行しているかどうかを確認するためには、以下のような追加の検査を行うことがあります。
・血液検査:白血球の数、貧血の有無、炎症を示す数値などを確認します
・胸部レントゲン検査:肺炎、気管支炎、腫瘍などの有無を画像で調べます
・喉や鼻腔の内視鏡検査・CT検査:呼吸器の構造的な異常や、ポリープ・腫瘤の有無を詳しく確認します
・培養検査:肺や気道に感染している細菌や真菌(カビ)などの病原体を特定します
これらの検査結果を総合的に評価することで、FIV感染による症状の進行度や、適切な治療方針を判断することが可能になります。
【治療方法】
猫エイズは、現時点では根本的な治療法が確立されていません。そのため、呼吸器症状が現れている場合には、症状をやわらげ、猫の生活の質を保つための対症療法が中心となります。
具体的には、細菌感染を抑えるための抗生物質の投与や、免疫力をサポートするサプリメント、インターフェロン製剤などを使用することがあります。
また、鼻炎や気管支炎といった慢性的な炎症が見られる場合には、ネブライザー(吸入治療)を取り入れることで、気道の炎症をやわらげ、呼吸がしやすくなる効果が期待できます。
さらに、症状に応じてステロイド剤や鎮咳剤などを用いることで、猫の負担を軽減し、できる限り快適に過ごせるようにサポートしていきます。
【予後】
猫エイズは無症状のまま数年経過し、中には症状を示さず生涯を過ごす場合もあります。
しかし、病気が進行してエイズ関連症候群期に入ると、慢性的な呼吸器トラブルが体に大きな負担をかけるようになります。
そして、末期のエイズ期に入ってしまうと、残念ながら効果的な治療が難しくなり、数ヶ月以内に亡くなってしまうケースもあります。
FIVの感染が判明した場合には、定期的に健康診断を受け、病気の進行度合いをチェックすることが重要です。また、気になる症状があったときには早めに受診するようにしてください。
既に呼吸器症状が現れている場合には、悪化を防ぐために以下のような環境づくりが役立ちます。
・室内の湿度を50〜60%に保つ
・タバコの煙や芳香剤、香りの強い洗剤などを避ける
・鼻づまりがひどい場合は、蒸気を活用したケア(ペット用蒸気療法など)を取り入れる
・安静に過ごせるよう、ストレスの少ない環境を整える
愛猫に気になる症状があれば、「もう少し様子を見ようかな」と迷う前に、ぜひご相談ください。
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