膿胸
呼吸器科
【病態】
膿胸(のうきょう)とは、胸腔(きょうくう)と呼ばれる肺の周囲の空間に膿が溜まってしまう状態を指します。
この膿は、細菌感染や外傷、または体内で起きた炎症が引き金となって発生します。
胸腔内に膿が溜まると、肺が圧迫されて正常に膨らまなくなり、その結果、呼吸が苦しくなる(呼吸困難)、粘膜が青紫色になる(チアノーゼ)などの重篤な症状が現れることがあります。これらの症状は、適切な処置が遅れると命に関わる危険性もあるため、注意が必要です。
膿胸の原因はさまざまで、主に以下のようなケースが考えられます。
・外傷性の感染:咬み傷や刺し傷などから細菌が胸腔内に侵入するケース
・肺膿瘍や肺炎の波及:肺の感染が胸腔にまで広がることがあります
・異物の誤飲・誤吸入:小枝や草などの異物が気道を通じて侵入し、炎症や感染を引き起こす場合
・免疫機能の低下による二次感染:特にFIV(猫免疫不全ウイルス)感染猫では、免疫力の低下により通常であれば防げる感染が進行しやすくなります
特に猫では、FIVに感染している場合、エイズ関連症候群に移行する時期に免疫力が大きく低下し、その影響で細菌感染を起こしやすくなります。
このような状態では、本来なら自力で防げるはずの細菌が体内に侵入し、膿胸へと進行してしまうことが少なくありません。
【症状】
膿胸の初期症状は非常にわかりづらいため、早期に気づくのが難しいケースもあります。
しかし、病状が進行するにつれて、次のような呼吸器症状が現れることがあります。
・浅くて速い呼吸(パンティングのような呼吸)
・呼吸時に胸やお腹が大きく動く
・異常な呼吸音(ヒューヒュー、ゼーゼーなど)
・食欲不振、元気の低下、発熱などの全身症状
また、胸腔内に膿が溜まることで、肺が圧迫されるだけでなく、強い痛みや違和感を伴い、呼吸がさらに困難になる場合もあります。
【診断方法】
膿胸の診断は、いくつかの検査を段階的に行いながら、症状の原因と程度を明らかにしていきます。
◆身体検査および聴診
呼吸の様子を観察しながら、胸部の痛みの有無や呼吸音の異常(減弱や雑音など)を確認します。
◆X線検査(レントゲン)
胸腔内に液体が溜まっていないかを確認し、肺の圧迫具合や他の呼吸器疾患との鑑別を行います。
◆胸腔穿刺(きょうくうせんし)
胸腔に溜まった液体を直接抜き取り、液体の状態を調べます。あわせて、細菌培養検査や細胞診を行い、感染の有無や性質を評価します。
◆血液検査およびFIV/FeLV検査
全身の健康状態や炎症の程度、免疫機能の評価を行い、猫の場合はあわせて猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)の感染の有無を調べます。
【治療法】
膿胸の治療では、膿の排出と感染の制御、呼吸状態の安定化、全身管理が中心となります。治療は以下のような方法を組み合わせて行います。
◆胸腔ドレナージ(チューブによる排膿)
胸腔内にチューブを挿入し、溜まった膿を排出します。
◆抗菌薬の投与(注射または内服)
細菌感染の制御は治療の中心となるため、培養検査の結果をもとに最も効果が期待できる抗菌薬を選択します。
◆酸素療法
呼吸困難が強い場合には、酸素室やマスクを用いて酸素補給を行い、呼吸をサポートします。
◆必要に応じた外科的処置
胸腔内に膿瘍や異物、腫瘤などが認められる場合には、それらを外科的に除去することが検討されます。
また、これらの治療と並行して、全身状態の管理も非常に重要です。
特に肥満傾向のある猫では、食欲不振が数日続くだけでも肝リピドーシス(脂肪肝)を引き起こす可能性があります。そのため、点滴による水分補給や栄養サポート(強制給餌など)が必要になることがあります。
【予後】
膿胸は、症状が進行する前に適切な治療を受けることで、十分に回復が見込める疾患です。
特に早期に発見され、抗菌薬による治療や排膿処置が適切に行われた場合には、数日から1週間ほどで呼吸状態が改善するケースも多くみられます。
ただし、以下のような要因がある場合には、予後に影響を及ぼすことがあります。
・症状の発見や治療の開始が遅れた場合
・多剤耐性菌による感染がある場合
・FIVなどによる免疫不全が進行している場合
・腫瘍や重度の歯周病など、基礎疾患を併発している場合
また、治療後にいったん症状が落ち着いたように見えても、再発を防ぐには、通院や検査を続けながら状態をしっかり管理していく必要があります。
獣医師と協力しながら、無理のない形で長期的なケアを続けていくことが大切です。