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巨大食道症

消化器科

【病態】

巨大食道症とは、食べたものや飲んだものを胃へ運ぶ食道の動きが弱くなり、食道の中に内容物がたまりやすくなる状態です。
食道がうまく収縮できないことで、食べた直後に未消化のまま吐き戻してしまったり、水を飲んだあとにむせたりすることがあります。

犬では、子犬期からみられる先天性の場合もあれば、成犬になってから別の病気に関連して起こる後天性の場合もあります。原因はさまざまで、次のようなものが知られています。

・はっきりした原因が見つからない特発性のもの
・重症筋無力症のような神経筋の病気
・内分泌の異常
・食道の炎症や狭窄などに伴って起こる

「吐く症状がある消化器の病気」と考えられがちですが、実際には呼吸器のトラブルにまでつながる可能性がある点が、この病気の大きな特徴です。
食事の工夫だけでなく、咳や呼吸の変化にも早めに気づくことが重要になります。

 

<誤嚥性肺炎のリスク>
巨大食道症で特に気をつけたいのが、誤嚥性肺炎です。食道にとどまった食べ物や水分が口やのどへ逆流し、それが気道に入り込むことで肺に炎症が起こります。
誤嚥性肺炎は巨大食道症の代表的な合併症で、場合によっては重症化し、命に関わることもあります。

 

▼誤嚥性肺炎についてはこちらで解説しています

 

【症状】

飼い主様が気づきやすいサインとして代表的なのは、食後すぐに未消化のフードを吐き戻してしまうことです。
一般的な「嘔吐」はお腹が波打つような動き(腹圧)があって吐き出すことが多い一方、巨大食道症では強い腹圧をかけずに、食べたものがそのまま上がってくる「吐出」が中心になります。見た目にはどちらも、吐いて見えるため、ご家庭で完全に見分けるのは難しいことも少なくありません。

そのため「吐いた」という症状だけでなく、ほかの気づきやすいサイン・症状にも目を向けてみてください。

・よだれが増える
・飲み込みにくそうにする
・食欲はあるのに体重が落ちる
・水を飲むとむせる、飲水後に咳が出る
・口臭が気になる
・元気がなくなる

特に、食べている量のわりに体重が増えない、あるいは痩せてきた場合は注意が必要です。

 

【診断】

巨大食道症が疑われる場合は「食道の動きに問題があるかどうか」と同時に「誤嚥性肺炎を起こしていないかどうか」をあわせて確認していきます。

また、「食べてすぐに戻す」という症状は巨大食道症だけでみられるものではないため、症状が似ている別の病気も含めて、ひとつずつ整理しながら診断を進めることが大切です。

 

問診・身体検査
まずは、吐いたように見える症状について詳しくお話をうかがいます。「食後すぐに戻すのか」「水を飲んだあとにむせるのか」「どのような食事形状で起こりやすいのか」「これまでに肺炎を起こしたことがあるか」などを確認します。
可能であれば、吐いた瞬間の様子を動画におさめていただくと、判断の手がかりになります。

そのうえで、獣医師が全身状態や呼吸の様子、栄養状態などを身体検査で確認し、必要な検査へと進めていきます。

 

胸部レントゲン検査
巨大食道症の診断では、胸部レントゲン検査が基本になります。
レントゲンでは、食道が拡張していないか、食べ物や空気が食道内にたまっていないかを確認します。あわせて、肺に誤嚥性肺炎を疑う変化が出ていないかも評価します。

 

造影検査
食道から胃にかけての内容物の通り方をみるために造影検査を行います。
造影剤というレントゲンで見えやすい液体を飲んでもらい、飲み込んだものが食道をどのように通っていくかを確認します。
食べ物や水が途中で止まっていないか、スムーズに胃まで流れているかをみるための検査です。
造影剤を使って食道の通り方を確認することで、内容物がどこで停滞しているか、通過に問題がないかを詳しくみていきます。

 

超音波検査(エコー検査) 
超音波検査は、食道そのものを詳しくみるというより、全身状態や併発疾患の手がかりを探るために役立ちます。
また、巨大食道症の背景に別の病気が隠れていないかを考えるうえで、補助的に行います。

 

血液検査
血液検査では、炎症の有無、脱水の程度、栄養状態などを確認します。
また、後天性の巨大食道症では、別の病気が関わっていることもあるため、検査結果や症状に応じて、神経筋の病気や内分泌疾患など二次性の原因を調べる追加検査も検討されます。

「食べてすぐに戻す」という症状は、巨大食道症だけでみられるものではありません。
胃腸炎、異物、食道狭窄、咽頭や喉頭の病気などでも似た症状が出ることがあるため、それぞれの可能性を見分けながら診断を進めます。

 

【治療】

巨大食道症の治療では、食道そのものの動きを元に戻すことが難しいケースも多いため、誤嚥をできるだけ防ぎながら栄養状態を保つ管理が中心です。
症例によっては、逆流の軽減や食道炎への配慮、吐出頻度の低減を目的として内科的な管理を行います。

ただし、巨大食道症は薬だけで十分にコントロールできるとは限らず、あくまで食事管理や姿勢管理を治療の軸としていきます。

 

<食事管理>
巨大食道症の管理で最も重要なのが、日常の食事の与え方です。

食べたものを重力で胃へ流れやすくするため、体を起こした姿勢で給餌したり、食後もしばらくその姿勢を保ったりする工夫が基本になります。

食事の内容もこれまで通りではなく、団子状、ペースト状、ふやかした形などを試しながら、その犬に合う形状を見極めていきます。

また、1回量を少なめにして回数を分けたり、水分の与え方を調整したりすることで、吐出や誤嚥のリスクを下げられることがあります。

 

<誤嚥性肺炎の治療のケース>
誤嚥性肺炎を起こしている場合は、早めの対応が必要です。
個々の状態に応じて、抗菌薬による治療、点滴、酸素管理などを行い、必要があれば入院で全身状態を整えていきます。

 

【予後】

予後は、特発性か二次性かという原因の違い、誤嚥性肺炎を起こしているかどうか、再発の頻度、体重や栄養状態を維持できるかどうかで変わってきます。
管理がうまく合うと、吐出を減らしながら生活の質を保てるケースもあります。反対に、肺炎を繰り返す場合は慎重な経過観察が必要です。

通院の際は、体重、咳、呼吸数、食事状況などを定期的に確認していきます。巨大食道症においては、吐出そのものへの対応だけでなく、誤嚥性肺炎の予防や早期発見も重視しています。

また、ご家庭でも食事の量や形状、食後の様子、咳の有無、体重の変化などを日々確認していただくことで、変化に早く気づきやすくなります。吐出の回数の増加咳や呼吸の異常がみられる場合は、早めにご相談ください。

当院では、消化器の状態だけでなく、誤嚥性肺炎を含む呼吸器の変化にも目を向けながら、全身をみる診療を大切にしています。
呼吸器診療や栄養や食事について専門的な知見をもつ獣医師も在籍しているため、巨大食道症のように食事の工夫が大切な病気についても、体調や生活に合わせてきめ細かくサポートしています。
気になる症状がありましたら、当院へご相談ください。

 

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