愛犬が突然水をたくさん飲む|“多飲多尿”が知らせる体の異変とは
コラム
「最近、うちの子、水を飲む量が増えた気がする」「夜中でも起きて水を飲みに行くし、トイレの回数も多くなったかも」
そんな変化に気づいた飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬が水をよく飲むと元気そうに見えますが、急な変化には注意が必要です。
飲む量や排尿の回数が増える「多飲多尿」は、加齢や季節の変わり目だけでなく、腎臓病や糖尿病などの病気が隠れていることもあります。
特に初期の症状は見逃されやすいため、早めに気づいて対処することが大切です。
今回は、犬の水分摂取量に関する変化から考えられる病気や注意点、そして日頃からできる観察のポイントについてお伝えします。
■目次
1.正常な水分摂取量の目安とは?“多飲多尿”を見極めるポイント
2.多飲多尿を引き起こす主な病気
3.診断方法
4.治療法
5.ご家庭でのケアのポイント
6.まとめ
【正常な水分摂取量の目安とは?“多飲多尿”を見極めるポイント】
「多飲多尿」かどうかを判断するには、まず愛犬の普段の水分摂取量を知っておくことが大切です。
犬の1日に必要な水分量は、体重1kgあたり約50〜60mlとされています。
たとえば体重5kgの犬であれば、1日あたり250〜300mlほどが目安となります。
この量を大きく超え、体重1kgあたり100ml以上を毎日飲んでいるような場合は「多飲」の可能性があります。
あわせて、トイレの回数が増えている、または排尿の量が多くなっている場合には「多尿」の可能性も考えられます。
<飼い主様が気づきやすい愛犬の行動変化>
・水の減りが早くなった
・夜中や早朝にも水を飲みに行く
・散歩中や外出先で、水を探すようなそぶりがある
・排尿の回数や量が明らかに増えている
・トイレの失敗が増えた
<特に注意したい症状>
これらの行動に加えて、以下のような症状が見られる場合は早めに動物病院に相談しましょう。
・急に元気がなくなり、食欲が落ちている
・嘔吐や下痢を繰り返している
・意識がぼんやりしている
・おしっこが出にくい、または血が混じっている
【多飲多尿を引き起こす主な病気】
多飲多尿はさまざまな病気のサインとなることがあります。以下に主な原因を挙げ、それぞれの特徴をご紹介します。
<腎臓の病気(慢性腎臓病など)>
腎臓の働きが低下すると、尿を濃くする力が弱まり、薄い尿をたくさん出すようになります。
その結果、水分が失われやすくなり、体は脱水を防ぐために水を多く欲するようになります。
主な症状:体重が減る/食欲がなくなる/嘔吐/口臭が強くなる など
<内分泌の病気(クッシング症候群・糖尿病など)>
◆クッシング症候群
副腎皮質ホルモンが過剰に分泌され、多飲多尿やお腹のふくらみといった変化が見られます。
▼クッシング症候群についてはこちら
◆糖尿病
尿に糖が出ることで尿量が増え、体が脱水にならないように水を多く飲むようになります。
主な症状:食欲はあるのに体重が減る/元気がなくなる/皮膚や毛の変化 など
▼糖尿病についてはこちら
<肝臓の病気>
肝臓の機能が落ちると、体内の代謝や毒素の処理がうまくできず、多飲多尿が起こることがあります。
主な症状:黄疸(目や歯ぐきが黄色くなる)/元気がない/嘔吐/便の色が薄くなる など
<子宮蓄膿症>
子宮が細菌感染し、中に膿が溜まる病気です。ホルモンバランスが崩れ多飲多尿となります。
主な症状:元気・食欲がなくなる/発熱/嘔吐/お腹が張る/陰部から膿が出る など
<その他の原因>
・利尿作用のある薬を使っている
・高齢による代謝の変化
・精神的ストレスや興奮
・暑さによる水分摂取の増加
多飲多尿は、それだけで病気と断定できるものではありませんが、ほかの症状と組み合わさって見えてくることが多いです。
だからこそ、日ごろの様子をじっくり観察することが何よりも大切です。
【診断方法】
愛犬の多飲多尿に気づいて動物病院を受診した際、まず大切になるのが「問診」です。
<獣医師に伝えたいポイント>
・いつ頃から飲水量が増えたか
・トイレの回数や尿の量・色に変化があるか
・食欲や元気、体重に変化はあるか
・嘔吐・下痢・呼吸の変化など、気になる症状がないか
可能であれば、ペットボトルや計量カップを使って給水量を計っておき、おおよその飲水量を把握しておきましょう。
<主な検査内容>
診察では、全身の状態を把握し、多飲多尿の原因を調べるために以下の検査が行われます。
・血液検査:腎臓や肝臓の働き、血糖値、電解質のバランスなどを確認します。
・尿検査:尿の濃さや糖分、たんぱく、血液の有無などをチェックします。
これらの検査は、腎臓病や糖尿病など、多飲多尿の背景にある病気を見つけるうえで非常に大切です。
<必要に応じて行われる追加検査>
・レントゲン検査:膀胱や腎臓の構造、子宮の腫れや膿のたまり具合などを確認します。
・超音波検査:腎臓や肝臓の内部の状態をより詳しく調べます。
・ホルモン検査:クッシング症候群など、内分泌系の病気を評価するために行います。
こうした追加検査を組み合わせながら、総合的に診断を進めていきます。
【治療法】
症状の原因によって、必要となる治療の内容は大きく変わってきます。
そのため、まずは動物病院でしっかりと検査を受け、正確な診断をつけてもらうことが何よりも大切です。
<腎臓病の場合>
腎臓の負担を減らすための食事療法(腎臓サポート食)を基本に、薬での治療や、水分補給の管理を組み合わせて進めていきます。
<糖尿病の場合>
インスリン注射で血糖値をコントロールしながら、低糖質の食事や体重管理を通じて安定した状態を保っていきます。
<クッシング症候群の場合>
ホルモンの異常を抑えるために、ホルモン抑制剤の内服が行われます。あわせて、定期的なホルモンバランスのチェックも欠かせません。
<子宮蓄膿症の場合>
子宮を取り除く外科療法と、薬で膿の排出を促進する内科療法があります。進行していると命の危険を伴う場合もあり、非常に注意が必要です。
このように、病気によって治療の内容は異なりますが、なかには一生付き合っていく必要がある慢性疾患も少なくありません。
そのため、「完全に治すこと」だけを目指すのではなく、「病気とうまく付き合いながら、日々の体調を安定させていく」ことがとても大切です。
【ご家庭でのケアのポイント】
病院での治療に加えて、ご家庭での日々のケアもとても大切です。以下のようなポイントを、ぜひ日常の中で意識してみてください。
・飲水量は毎日、同じ時間帯に計測し、記録をつける
・排尿の回数や、尿の色・においにも注意を払う
・愛犬の元気さや食欲に変化がないか、普段から注意して見守る
・定期的に体重を測定する
また、処方されたお薬は必ず獣医師の指示通りに与えることが、治療の基本になります。
つい飲ませ忘れてしまったり、症状が落ち着いたからと自己判断で中止してしまったりすると、本来の治療効果が十分に得られなくなってしまうことがあります。
さらに、症状が落ち着いているように見えても、体の中では病気が少しずつ進行している場合もあります。
そのため、定期的に検査を受けて、体調の変化を数値で確認していくことが欠かせません。
検査結果に基づいて治療内容を細かく見直すことで、そのときの愛犬にとって一番良い状態を保つことができます。
【まとめ】
ふと、水をたくさん飲んでいることに気づいたら、それは愛犬が体調の変化を知らせてくれているサインかもしれません。
多くの病気は、初期には目立った症状がなく、小さな変化として現れることがよくあります。
しかし、なかには重症化するものや長く付き合っていく必要のある病気が隠れている場合もあります。
気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
■関連する記事はこちらです
飼い主さんと動物たちのえがおのために
京都府長岡京市「乙訓どうぶつ病院」
~乙訓地域(長岡京市、向日市、大山崎町)、大原野、伏見、久御山、島本町~
診療案内はこちら