肺血栓塞栓症
呼吸器科
【病態】
肺血栓塞栓症は、全身の静脈や心臓で作られた血の塊(血栓)が肺の血管に詰まることで発生します。
肺の血管が閉塞すると、肺への血流が妨げられ、体内に十分な酸素を送ることができなくなることで、頻呼吸などの症状を引き起こします。
原因は、心臓病や敗血症、腫瘍、糖尿病、免疫介在性溶結性貧血、クッシング症候群など様々な疾患があり、血液凝固亢進(血が固まりやすい状態)や血流の停滞、血管内皮の損傷を起こすことで血栓が形成されます。
病状は様々で、小さな血栓で症状を引き起こさない場合もあれば、大きな血栓が詰まり突然死してしまう場合もあります。
【症状】
肺血栓塞栓症の症状は、急に現れることが多く、命に関わる非常に危険な状態です。ここでは、具体的な症状についてご説明します。
・呼吸困難
呼吸がとても苦しそうで、速く浅い呼吸を繰り返すような状態です。何もしていないのに呼吸が速くて浅い場合は、特に注意が必要です。
・頻呼吸
呼吸の回数が異常に増える症状です。通常、犬や猫は1分間に20〜30回程度の呼吸をしますが、この病気では50回以上に増えることもあります。
・抑うつ状態
元気がなくなり、食欲が低下し、動くことを嫌がるようになります。普段活発な犬や猫が、急に無気力で反応が鈍くなった場合は要注意です。
・咳や喀血(かっけつ)
激しい咳が出ることがあり、場合によっては血が混じった痰を吐くこともあります。これは肺や気道に問題が起きているサインです。
・チアノーゼ
皮膚や粘膜、特に歯茎や舌が青白〜紫色になる状態で、酸素不足が進行したときに見られます。
・失神
極度の呼吸困難や酸素不足が続くと、意識を失って倒れてしまうことがあります。
・胸部の痛みや不快感
胸部を気にしたり、痛がる様子を見せることがあります。
特に、体を丸めて横たわっている時間が長い場合、肺や胸部に痛みを感じている可能性があります。
・運動不耐性
簡単な運動や少し歩くだけでもすぐに疲れてしまい、座り込んでしまうことがあります。これは血栓によって血流が悪くなり、体に十分な酸素が行き渡らないために起こる症状です。
【診断方法】
肺血栓塞栓症を診断する際は、まず飼い主様への問診を行います。呼吸に違和感を感じ始めた時期や、これまでの病歴についてお伺いします。
その後、以下の検査を進めていきます。
・身体検査:呼吸の状態や、チアノーゼ(歯茎や舌が青白〜紫色になる)、発熱の有無などを確認します。
・画像検査:レントゲン検査や心臓エコー検査、CT検査などを行い、肺や心臓の状態を確認し、血栓があるかどうかを調べます。特にCT検査は、血栓の位置や状態を詳しく把握するのに役立ちます。
・血液検査:血液の凝固機能や酸素濃度を測定し、血栓ができやすい状態か、また血液中に十分な酸素が含まれているかを確認します。
【治療方法】
治療は、原因疾患の治療と並行して、動物の状態に応じて以下のような方法が行われます。
・酸素吸入:呼吸を楽にするために酸素吸入を行います。酸素濃度を高めることで、血液に十分な酸素を供給し、息苦しさを和らげます。
・抗凝固薬の投与:血栓がさらに進行しないように、血液が固まるのを防ぐ薬を用います。
・血栓溶解薬の投与:既にできている血栓を溶かすために用いられます。
・支持療法:点滴や鎮静剤を用いて、犬や猫の体力を維持しながら、血流を改善する治療を続けます。
【予後】
肺血栓塞栓症の予後は、原因となっている基礎疾患の進行具合や、血栓が肺に詰まってからの経過時間によって大きく異なります。
早期に発見し、適切な治療が行われた場合には、改善が見込まれることが多いですが、血栓が大きく広範囲に及んでいる場合や、血液凝固機能に異常がある、重篤な基礎疾患がある場合などには、予後が厳しいことも少なくありません。
特に、心臓病や糖尿病、免疫介在性溶血性貧血、クッシング症候群などの病気を持っている場合は、日常的に呼吸の様子をよく観察することが大切です。
もし呼吸に異変を感じたら、すぐに獣医師に相談するようにしましょう。