橈尺骨骨折
整形外科
【病態】
橈骨と尺骨は、人間で言うと肘から手首までを構成する2本の骨で、犬や猫では前足の骨にあたります。この橈骨と尺骨は骨折することが多く、特に骨の細い小型犬では少しの衝撃で折れてしまうことがあります。
猫は高いところから落下しても優れた運動能力で衝撃を和らげて着地できるため、通常は骨折することは少ないですが、不意の落下や非常に高い位置からの落下では骨折することがあります。一方、小型犬(特にプードル、ポメラニアン、チワワなど)や骨の細い犬種(イタリアン・グレイハウンド、ボルゾイ、サルーキー、アイリッシュ・セッターなど)は、橈骨と尺骨の骨折が特に多いです。
例えば、抱っこ中に誤って落としてしまう、階段から転げ落ちる、狭い場所に足を引っ掛けるなど、日常のさまざまな動作で骨折することがよくあります。
犬や猫の骨折の多くは家の中で発生します。特に子犬の頃は骨がまだ強くないため、好奇心旺盛で活発な動きが原因で骨折しやすいです。
小型犬や骨の細い犬種、子犬と暮らしている方は特に注意が必要です。
【症状】
橈尺骨骨折に限らず、骨折するとまず強い痛みが現れます。犬の場合、落下時にギャンと鳴く、前足を引きずるように歩く、前足を地面に着けずにケンケンするなどの様子が見られます。また、元気や食欲が低下することも一般的です。
猫の場合は、骨折の症状が犬よりも分かりづらいですが、隠れて出てこない、食欲が低下する、体に触ろうとすると嫌がるなどの兆候が見られます。
橈尺骨を骨折している場合、よく観察すると前肢が大きく腫れ、内出血を伴っていることが分かります。このような症状が現れた場合、骨折や骨のヒビなど何らかの怪我をしていることは確実ですので、すぐに動物病院を受診しましょう。
夜間の場合は、お近くの夜間救急病院に連絡してください。
また、飼い主様として応急処置をしたくなるかもしれませんが、動物の骨折の応急処置は非常に難しく、むやみに触ると状態を悪化させたり攻撃的になった動物に噛まれたりする危険性があるため、安静にした状態ですぐに動物病院を受診することを優先しましょう。
【診断・治療】
まず、愛犬や愛猫が骨折する原因となった事故があったかどうかを飼い主様に伺います。そして、事故の状況によっては他の部位の骨折や頭部外傷も疑い、慎重に検査を進めていきます。
院内での歩き方や様子を観察しながら、触診やレントゲン検査を行い、骨折の有無を診断します。橈尺骨骨折の場合は、レントゲンで橈骨や尺骨にヒビや骨折線が見つかることがあります。
橈尺骨骨折の治療は、骨折の種類や重症度によって異なります。例えば、軽度の横骨折(骨の長軸に対して垂直に骨折線が入る場合)では、特殊な包帯やギプスで患部をしっかり固定し、絶対安静を保つことで手術をせずに治療することが可能です。この固定は痛みの軽減にも役立つため、必ず行います。
しかし、多くの場合は手術が必要となります。手術では、ロッキングプレートなどの器具を使って骨を固定し、治癒を促進します。
手術後は、痛み止めと抗生剤で痛みや感染を管理し、ケージ内で安静にします。安静を守れずに走る、ジャンプ、飛び降りるなどをしてしまうと、骨が曲がった状態で繋がる変形癒合(へんけいゆごう)や再骨折などが起こってしまい、再手術が必要となるケースもあります。
術後に再度足を床につけなくなった、などの明らかな異変があれば、すぐに動物病院を受診してください。
【予後】
橈尺骨骨折の予後は、骨折後速やかに治療を行えば良好です。折れた骨は1~3ヵ月で治癒すると言われており、適切な治療を受ければその後元の生活に戻ることができます。
しかし治療が遅れると、骨が変形したり溶けたりして、手術をしても良好な結果が得られないことがあります。
骨折が疑われる場合や高所からの落下があった場合は、自宅で様子を見ずにすぐに動物病院を受診しましょう。
また、骨折を予防するためには、日常生活でいくつかの工夫をすることが重要です。
例えば、愛犬や愛猫を抱っこする際は、しゃがんでからゆっくりと持ち上げるようにしましょう。また、抱っこから降ろす時も、地面に優しく降ろすことを心掛けてください。
さらに、高い場所に登れないように家具の配置を工夫し、階段には落下防止柵を設置するなどの対策も効果的です。
万一骨折してしまった場合のために、ケージ内で安静にする練習をしておくこともおすすめします。家族が部屋にいる時間帯にケージの中で過ごす時間を少しずつ作り、静かに寝るまで構わず放っておくようにしてみましょう。いざという時にきっと役立つはずです。