肺腫瘍
呼吸器科
【病態】
肺腫瘍とは、肺に発生する腫瘍を指します。腫瘍には良性と悪性の2種類がありますが、犬や猫では肺に発生する腫瘍の多くが悪性腫瘍、いわゆる「肺がん」であることが多いとされています。
肺腫瘍は、肺そのものから発生する原発性肺腫瘍と、他の臓器から転移してくる転移性肺腫瘍に分類されます。犬や猫の場合、乳腺腫瘍や骨肉腫など、他の部位で発生したがんが肺に転移する転移性肺腫瘍のほうが多い傾向にあります。
腫瘍が肺にできると、肺が本来持つ呼吸機能が妨げられるほか、腫瘍から分泌される物質が体全体に影響を及ぼすことがあります。また、腫瘍が大きくなることで周囲の組織を圧迫し、痛みや呼吸困難を引き起こす場合もあります。
この病気の原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因や環境的な影響(タバコの煙や大気汚染)、加齢などが関与していると考えられています。
【症状】
肺腫瘍は、初期段階では症状がはっきりと現れないことが多い病気です。しかし、進行するにつれて以下のように体調や行動にさまざまな変化が見られるようになります。
・咳が出る
肺腫瘍の初期症状として最もよく見られるのが「咳」です。特に乾いた咳が長く続く場合は注意が必要です。「少し風邪気味かな?」と思う程度の咳でも油断せず、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
・呼吸が荒い、または息切れ
腫瘍が肺を圧迫することで、呼吸がしづらくなることがあります。その結果、普段より疲れやすくなったり、軽い運動でも息切れを起こしたりすることがあります。
・食欲の低下
肺腫瘍が進行すると、体の代謝が変化し、食欲が落ちることがあります。いつもは喜んで食べるご飯に興味を示さない場合は、病気の兆候かもしれません。
・体重減少
食欲の低下に伴い体重が減少する場合がありますが、腫瘍から分泌される物質が影響して体重が落ちることもあります。
また、筋肉量の低下が見られる場合もあるため、愛犬や愛猫の体重を定期的に測定することが健康管理の一環として大切です。
肺腫瘍の症状は、呼吸器疾患や心臓病など、他の病気と似ている場合があります。
そのため、症状だけで病気を特定するのは難しいことが多いです。咳や息切れ、食欲不振などが続く場合、または普段と違う様子が気になる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
【診断方法】
肺腫瘍が疑われる場合、正確に診断するためには複数の検査が必要です。早期に診断を受けることで、治療の選択肢が広がり、愛犬や愛猫の体への負担を減らすことにつながります。
<レントゲン検査>
肺の状態を確認するために最初に行われることが多い検査です。腫瘍の位置や大きさ、広がり具合を把握するのに役立ちます。
ただし、初期段階の小さな腫瘍は見つけにくいことがあるため、より精密な検査と併用されることが一般的です。
<CT検査>
レントゲンよりも詳細な画像を得るために使用されます。腫瘍の正確な位置や周囲の組織への影響を確認するために非常に有効です。
<病理組織検査>
腫瘍が良性か悪性かを判断し、さらに腫瘍の種類や悪性度を詳しく調べるための検査で、肺から直接腫瘍細胞を採取します。
腫瘍細胞の採取には針生検(針を刺して細胞を採る検査)が有用ですが、発生部位によっては針を刺すことが困難な場合も多くあります。そのため、手術で腫瘍を摘出した際に、その摘出組織を病理組織検査に依頼することが一般的です。
<血液検査>
全身の健康状態や、腫瘍が他の臓器に与える影響を調べるために行われます。
腫瘍による炎症や感染の兆候を確認することもできます。
<超音波検査>
肺腫瘍が引き起こす胸水(胸腔に溜まる液体)の有無や状態を確認する際に使用されます。胸水がある場合、その量や位置を把握することが可能です。
また、肺腫瘍そのものを超音波検査で直接確認できる場合もあります。
【治療方法】
肺腫瘍の治療は、腫瘍の種類や進行状況、愛犬や愛猫の体調を考慮して選択されます。
<手術>
原発性肺腫瘍で転移が見られない場合、腫瘍を外科的に切除することが最も効果的とされています。特に、腫瘍が小さく、健康な組織に浸潤していない場合に有効な治療法です。
<抗がん剤治療>
腫瘍が転移性である場合や、手術後の追加治療が必要な場合に選択される治療法です。抗がん剤には腫瘍の増殖を抑える効果が期待できますが、副作用が伴うこともあるため、愛犬や愛猫の体調や病気の進行状況を慎重に見極めた上で判断されます。
<放射線治療>
肺腫瘍を手術で取り除くことが難しい場合などに、症状の緩和を目的として行われる治療法です。放射線治療は、腫瘍そのものを縮小させたり、進行を遅らせたりすることが期待できます。
<対症療法>
肺腫瘍による症状を軽減し、愛犬や愛猫の生活の質(QOL)を向上させることを目的とした治療です。この方法は、病気そのものを治すわけではありませんが、苦痛を和らげ、快適な日常生活を支えるために重要な役割を果たします。
・咳や息切れを抑えるための鎮咳薬の使用
・酸素吸入による呼吸のサポート
・胸水の排出による呼吸の負担軽減
【予後】
肺腫瘍の予後は、腫瘍の種類や進行度、治療を始めるタイミングによって大きく変わります。
<原発性肺腫瘍の場合>
早期に発見され、手術が成功した場合には比較的良い予後が期待できます。
しかし、腫瘍が悪性で進行が速い場合には、再発や転移のリスクが高まることがあります。そのため、治療後も定期的な検査を受けることが重要です。
<転移性肺腫瘍の場合>
他の臓器から肺へ転移してきた場合、治療の目標は腫瘍を完全に取り除くことではなく、愛犬や愛猫の生活の質(QOL)を維持しながら寿命を延ばすことに重点が置かれます。
このようなケースでは、抗がん剤治療や対症療法を用いて症状を緩和し、できる限り快適な日々を過ごせるようにサポートします。
肺腫瘍の予後は愛犬や愛猫の状態によって異なりますが、一般的には半年〜2年程度が生存期間の目安とされています。ただし、これはあくまで参考値であり、病気の進行状況や治療の効果次第で大きく変わることがあります。
愛犬や愛猫の体調を細かく見守りながら、獣医師と相談して最適なケアを行うことが何よりも大切です。