咽頭尾部腫瘍
耳鼻科
【病態】
咽頭尾部(鼻咽頭部)とは、軟口蓋の後方に位置し、鼻の奥から喉(咽頭)の奥にかけての部分を指します。
この部位は呼吸の通り道であり、腫瘍が発生すると空気の流れが妨げられ、呼吸しづらくなることがあります。また、腫瘍の大きさや位置によっては食べ物の通過が難しくなることもあります。
この部位に発生する腫瘍は悪性の割合が高く、早期の診断と適切な治療が非常に重要です。
特に犬では腺癌(特に鼻腔腺癌)、扁平上皮癌、軟骨肉腫が多く、猫ではリンパ腫や扁平上皮癌がよく見られます。
悪性腫瘍は進行すると周囲の組織に浸潤しやすく、腫瘍の種類によっては転移することもあるため、症状が徐々に悪化するのが特徴です。
一方、良性腫瘍としては、横紋筋腫、軟骨腫、粘液軟骨腫などが報告されていますが、犬では鼻咽頭炎に伴うポリープ(炎症性ポリープ)が発生することもあります。
【症状】
咽頭尾部腫瘍の症状は、腫瘍の発生場所や大きさによって異なりますが、主に以下のような変化が見られます。
・鼻づまりや呼吸のしづらさ
鼻咽頭の空間が狭くなることで空気の通りが悪くなり、特に伏せた状態や睡眠時に呼吸が苦しくなることがあります。
また、「ブーブー」「ゼーゼー」といった異常な呼吸音が聞こえることもあります。
・くしゃみや鼻血
腫瘍が鼻腔に影響を及ぼした場合、くしゃみや鼻血が見られることがあります。
特に、鼻血が長引く場合は注意が必要です。
・鼻水が増える
透明な鼻水が続くこともあれば、粘り気のある膿のような鼻水が出ることもあります。
・食欲低下
腫瘍が咽頭や食道の入り口に影響を与えると、食事がしづらくなり、飲み込みにくそうな仕草を見せることがあります。
・目の変化や顔のゆがみ
腫瘍が鼻腔や副鼻腔、眼窩に影響を及ぼすと、眼球の突出や顔の一部に腫れが生じることがあります。
【診断方法】
診断は、いくつかの検査を組み合わせて行います。
・視診・触診
まず、顔の周りや口腔内の異常を確認し、鼻づまりの有無や眼球突出、リンパ節の腫大がないかを調べます。
また、重度の呼吸困難がある場合は、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる症状)が見られることがあります。
・X線検査(レントゲン)
レントゲンは、咽頭尾部の異常の有無や、腫瘍による骨の変化を調べるために行われます。
ただし、鼻咽頭の詳細な評価はレントゲンでは難しく、単独での診断は困難なため、より高度な画像検査(CTやMRI)が推奨されます。
・CT検査やMRI検査
咽頭尾部腫瘍の診断にはCTが特に適しており、腫瘍の大きさや広がり、周囲の組織への影響を正確に把握できます。
MRIは、腫瘍が軟部組織に及んでいるかどうかを詳しく調べる際に役立ちます。
腫瘍が脳や神経に浸潤している可能性がある場合は、MRIが推奨されます。
・内視鏡検査
内視鏡を使用し、鼻腔や咽頭の内部を直接観察することで、腫瘍の有無を確認します。
腫瘍の位置によっては、内視鏡で直接確認できない場合もありますが、生検(組織採取)を行い、病理検査で腫瘍の種類を特定することが可能です。
【治療方法】
咽頭尾部腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や進行度に応じて異なります。
まず、気道が閉塞して呼吸困難を引き起こしている場合は、酸素吸入やステロイドの投与を行い、呼吸状態を安定させることが最優先となります。
重度の場合は、一時的に気管切開を実施することもあります。
その後、以下の治療を検討します。
<外科手術>
咽頭尾部腫瘍に対する外科手術は完全切除が難しいため、一般的な治療法とはなりにくいですが、良性腫瘍やポリープの摘出には有効な場合があります。
また、一部の悪性腫瘍でも腫瘍の一部を切除して気道の閉塞を軽減する目的で行われることがあります。
<放射線療法>
咽頭尾部腫瘍の治療において、放射線療法は重要な選択肢の一つです。
特に手術が難しい場合に適応されることが多く、腫瘍細胞の増殖を抑えるだけでなく、症状の緩和にも役立ちます。
放射線療法には根治を目指すものと、症状の緩和を目的とするもの(緩和的放射線治療)があります。
ただし、実施できる病院が限られる(大学病院や高度医療施設など)、治療費が高額、複数回の全身麻酔が必要といったデメリットもあります。
<化学療法(抗がん剤治療)>
腫瘍の種類がリンパ腫の場合には、化学療法が治療の中心となります。
特に猫の鼻咽頭リンパ腫は化学療法に良好な反応を示すことが多く、治療の第一選択となります。
その他の悪性腫瘍では、放射線療法と併用する補助療法として化学療法が用いられることがあります。
<対症療法>
腫瘍が進行している場合や積極的な治療が難しい場合には、症状を和らげる治療が行われます。
・痛みの管理:鎮痛剤や抗炎症薬を使用
・呼吸状態の改善:ステロイドによる炎症の軽減
・鼻づまりの緩和:ネブライザー(吸入治療)は炎症性疾患では有効なことが多いですが、腫瘍の進行により閉塞が強い場合は効果が限定的となることもあります。
【予後】
咽頭尾部腫瘍の予後は腫瘍の種類や進行度、治療法によって大きく異なります。
早期に発見し、適切な治療を行うことで一定期間症状を抑えながらQOL(生活の質)を維持できる場合もありますが、悪性腫瘍が進行した状態で発見された場合は治療が難しく、予後が厳しくなることが多いです。
咽頭尾部腫瘍は、初期症状が軽いため気づきにくいことがありますが、早期発見と適切な治療が重要です。
愛犬・愛猫の呼吸の異常や鼻水、くしゃみなどの症状に気づいた際は、できるだけ早く動物病院を受診し、適切な診断を受けることが大切です。
気になる症状があれば、迷わずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
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