肺挫傷
呼吸器科
【病態】
交通事故や高い場所からの落下、強い衝突のあとに、「少し咳が出る」「ゼーゼーする」「なんとなく元気がない」といった変化が現われることがあります。外から見て大きな傷がなかったとしても、胸の中では肺が傷ついている場合があり、そのひとつが肺挫傷(はいざしょう)です。
肺挫傷とは、胸に強い衝撃が加わったことで肺の組織が傷つき、肺の中で出血や炎症が起こった状態です。骨折のように外から見てわかりやすい傷ではないため見逃されやすい一方で、肺の中では酸素を取り込む働きが妨げられ、呼吸が苦しくなることがあります。
とくに注意したいのは、受傷直後に落ち着いて見える場合がある点です。
ケガの直後に病院を受診し、レントゲン検査を受けても、レントゲン画像にははっきりとした異常が出ず、時間の経過とともに悪化する場合があるのです。
普通に歩けているように見えても、肺でのガス交換がうまくいかなくなると、体は酸素不足の状態になります。その結果、呼吸が苦しそうになるのです。
したがって、事故やケガの直後に元気に見えても油断はせず、呼吸の様子を丁寧に見てあげたいところです。
また、胸の外傷では肺挫傷だけでなく、気胸、胸腔内出血、肋骨骨折などを伴うケースもあります。そのため、動物病院では肺だけの問題として捉えずに、胸の外傷全体を評価します。
▼気胸についてはこちらで解説しています
【症状】
肺挫傷では組織が傷ついてガス交換がうまくできなくなるため、呼吸状態の悪化につながります。
そして、重症化すると酸素不足が進み、チアノーゼ(舌や歯茎が紫色や青白くなる様子) や反応の低下など、全身の状態にも影響が及ぶことがあります。
<行動・様子の変化>
まずは、呼吸の異常として気づく前に、動き方やしぐさの変化として表れることがあります。
・じっとして動きたがらない
・横になる時間が増える
・散歩を嫌がる
・すぐに座り込む
・抱き上げると嫌がる
・胸まわりを触られるのを嫌がる
食欲が落ちたり元気がなくなったりすることもあり、飼い主様から見ると「呼吸器の問題」というより、「なんとなく様子がおかしい」と感じられる場合も少なくありません。
<呼吸の症状>
また、咳や異常な呼吸音など、呼吸の変化として気づかれることもあります。
・咳
・「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音
・痰がからむような様子
・えずき
・呼吸が速い、浅い
・胸を大きく動かして呼吸する
・苦しそうに見える
このような症状がある場合は、呼吸の負担を増やさないよう無理に動かさず、安静を保ったうえで早めに受診してください。
<危険性の高い症状と様子>
次のような様子があるときは、すぐに受診をするようにしてください。
・口を開けて呼吸している
・舌や歯ぐきが青い(チアノーゼ)
・ぐったりして反応が鈍い
・安静時も呼吸の速さや荒さが目立つ
・受傷後から時間が経ち、これまでにない苦しげな呼吸をするようになった
こうした変化は肺挫傷に限らず、胸の中でほかの重い異常が起きている可能性も考えられます。
【診断】
肺挫傷が疑われるときは、呼吸の状態を確認しながら、胸の中でどのような異常が起きているのかを段階的に見極めていきます。
◆ 問診
最初に行う問診では、まず「いつ、どこで、どのように胸をぶつけたか」の把握が重要です。交通事故だったのか、落下だったのか、ほかの犬や物にぶつかったのか、踏まれたのかなど、原因によって想定される外傷の範囲が変わります。
また、「咳や呼吸の変化が受傷直後から出ていたのか」「少し時間がたってから目立ってきたのか」も大切な情報になります。
◆ 身体検査
身体検査では、視診にくわえ、呼吸数、呼吸の深さ、肺音や異常な呼吸音の有無、チアノーゼの有無、胸の痛みなど全身状態を確認していきます。
胸の外傷では複数の障害が同時に起きていることもあるため、呼吸だけでなく循環の状態まで含めて慎重にみていく必要があります。
◆ 画像検査
画像検査の種類では、胸部X線検査で肺の陰影変化や、気胸、胸腔内出血、骨折などほかの胸部異常がないかを確認します。
ただし、肺挫傷は受傷直後のレントゲンでは変化がはっきり出ない場合もあり、時間をおいて再評価が必要になることもあります。
必要に応じて超音波検査(エコー)で胸水や胸腔内の異常をみることもあります。
◆ 血液検査
血液検査では、全身状態や炎症の程度、出血の影響などを把握します。さらに、呼吸の状態によっては血液ガス分析で酸素化の程度を確認し、どのくらい呼吸が保てているかを評価します。
当院では呼吸器専門診療を行っており、地域に根差した動物病院でありながら、透視レントゲン検査やCTなどの精密検査にも対応しています。胸の強い衝撃では、肺挫傷だけでなく気胸や胸腔内出血などを伴うこともあるため、検査から治療まで一貫して対応できる体制を整えています。
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【治療】
治療でまず優先されるのは「呼吸の安定」です。呼吸が苦しそうなときには、検査を急ぐより先に酸素を取り込みやすくするサポート(酸素化)をし、体への負担を減らします。
肺挫傷を含む胸部外傷では、酸素投与と痛みの管理を行いながら慎重に状態をみていくことが基本となります。
そのうえで、安静管理や入院での経過観察を行います。
軽度であれば慎重な経過観察で改善が見込める場合もありますが、呼吸状態が不安定な場合や、時間とともに悪化する可能性がある場合には、入院下で呼吸数や全身状態を継続して確認することが大切です。
胸の外傷では、見えている症状だけで判断せず、変化を追いながら対応していく姿勢が求められます。
また、重症度が高い場合には、肺挫傷そのものへの対応だけでなく、合併する気胸や胸腔内出血などへの追加処置が必要になることもあります。呼吸困難のある動物では短時間での状態悪化のリスクがあるため、治療と検査の優先順位をその場で見極めていきます。
【予後】
肺挫傷の予後は、以下の要素が影響します。
・受傷の強さ
・肺の障害の範囲
・受診までの時間
・気胸や胸腔内出血など合併症の有無
・治療開始後に呼吸状態が安定するかどうか
軽度であれば改善が期待できることもありますが、重度では命に関わることもあるため、胸をぶつけたあとの呼吸の異変は非常に重要なサインになります。
また、肺挫傷は受傷直後よりも、その後の数時間で状態が変わることがあります。
通院後、退院後もしばらくは安静を守り、咳や呼吸の変化がぶり返さないか、元気や食欲が落ちていないかを丁寧に確認することが大切です。
少しでも呼吸が速い、苦しそう、胸を触られるのを強く嫌がるといった変化があれば、速やかに再受診しましょう。
胸の外傷後に呼吸の異変があるときは、どうか様子見を続けすぎず、ご相談ください。
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