猫の破歯細胞性吸収病巣
歯科
【病態】
猫の破歯細胞性吸収病巣は、破歯細胞の働きによって、歯の硬い組織が少しずつ吸収される歯科疾患です。「歯の吸収病巣」や「歯牙吸収病巣」とも呼ばれています。
歯が吸収される変化は、歯の根や歯茎との境目付近などから起こります。
歯の根など外から見えにくい部分だけで進んでいるうちは、見た目では気づけないのが特徴です。
この変化が目に見える部分(歯冠)まで広がると強い痛みが生じ、さらに進行すると神経や血管のある歯髄まで影響することがあります。
また、見た目にも変化があり、歯の一部が欠けたように見えたり、赤く腫れた歯茎が歯を覆うように盛り上がったりします。
複数の歯に同時に発生する場合があるほか、最初は問題のなかった別の歯に、後から新たな吸収病巣が生じることもあります。
猫に多い病気でありながら、詳しい発症原因は未だ明らかになっていません。
また、年齢が高い猫ほど多く見られますが、若い猫にも起こる可能性があります。
<歯周病との違い>
破歯細胞性吸収病巣と歯周病は、どちらも猫の口腔内に痛みや炎症を生じさせますが、病態は異なります。
歯周病は、歯垢中の細菌などが関係して歯肉や歯を支える組織に炎症が起こる病気です。一方、破歯細胞性吸収病巣では、破歯細胞によって歯そのものが吸収されます。
なお、同じ歯に「歯周病」と「歯の吸収」が同時に起こるケースもあります。見た目だけで両者を区別するのは難しいため、詳しい検査を必要とします。
▼歯周病はこちらで解説しています
【症状】
破歯細胞性吸収病巣は、初期には見た目に変化が見られません。また、猫は口の痛みをはっきりと示さない習性があります。
そのため、以下のような様子がヒントになる場合もあります。
・フードを口から落とす
・片側だけで噛む
・顔を傾けて食べる
・硬いフードを避ける
・食事中に突然口を止める
・食事の近くに来ても、すぐに離れる
・口をクチャクチャ動かす
・あごを小刻みに震わせる
・よだれが増える
・口元を前足で気にする
・顔周りを触られることを嫌がる
・食事量や体重が減る
「食べようとしても食べられない状態が続く」「よだれに血が混じる」「元気がない」といった変化がある場合は、早めに動物病院へご相談ください。
【診断】
歯の吸収が疑われる場合、全身麻酔下での詳しい口腔内検査と歯科レントゲン検査を行うことがあります。
◆ 問診・口腔内の観察
食事の量だけでなく、噛み方、食べる速さ、フードの好み、よだれ、口臭などを確認します。口腔内では、歯茎の赤みや盛り上がり、歯の欠損、歯石、歯周病などがないかを観察します。
猫が痛みを感じている場合、起きた状態で無理に口を開けても十分に確認できません。見える範囲に異常がなくても、吸収病巣を否定できない点に注意が必要です。
◆ 全身麻酔下での口腔内検査
状態に応じて全身麻酔を行い、歯科用の器具を使って歯と歯茎の境目を確認します。病変部に器具が触れると痛みが生じるため、正確な検査や処置には麻酔を必要とします。
全身麻酔を行う前には、年齢や持病、身体検査の結果などを踏まえ、必要に応じて血液検査や画像検査を実施します。
◆ 歯科レントゲン検査
歯科レントゲンでは、外からは見えない歯根や歯槽骨(しそうこつ)の状態を確認できます。吸収病巣のある歯だけでなく、見た目に異常がない歯にも病変が隠れている場合があるため、口腔内全体を評価します。
乙訓どうぶつ病院では、見た目ではわかりづらい破歯細胞性吸収病巣も歯科レントゲンの所見を踏まえ、必要な処置を検討します。
▼当院の手術と麻酔についてはこちらでご案内しています
<吸収病巣の類型>
また、吸収病巣は歯科レントゲン結果の特徴から、主に3つの型に分類されます。
・1型:歯根の形が比較的保たれており、歯根と周囲の骨との境界も確認できる
・2型:歯根の吸収が進み、徐々に周囲の骨と一体化するような変化がある
・3型:1本の歯の中に、1型と2型の両方の特徴をもつ
この分類は、歯根を含めて抜歯するか、条件を満たす場合に歯冠切除を検討できるかを判断する指標です。
【治療】
すでに吸収された歯を元の状態へ戻したり、吸収そのものの進行を止めたりする方法は、現在のところ確立されていません。そのため、治療では主に痛みの原因となっている歯への適切な処置を目指します。
<抜歯>
1型の吸収病巣では、通常「歯冠と歯根を含めた抜歯」を検討します。歯根が残ると痛みや炎症の原因になることがあるため、処置後にも歯科レントゲンを撮影し、歯根が残っていないかを確認します。
<歯冠切除>
2型や一部の3型のうち、歯根の吸収が進んで周囲の骨と一体化するような変化があり、歯周病や歯の神経・根の先の病気を伴わないなどの条件を満たす場合は、歯冠切除が選択肢になります。
これは歯茎より上の歯冠部分を除去し、歯茎を縫合する方法です。
ただし、歯冠切除はすべての吸収病巣に行える処置ではありません。1型や歯周病を併発している歯などでは、残した歯根が問題となる恐れがあるため、慎重に判断します。
<痛みへの対応>
抜歯や歯冠切除を行う場合は、猫の状態に合わせて鎮痛処置を組み合わせます。術後は、傷口の状態を確認しながら、食事内容や投薬方法を調整します。
【予後】
麻酔やお口の処置の後は、一時的に食欲や元気が落ちることがあります。ご自宅では、食事の様子や腫れ・出血、元気があるかなどをよく確認してください。
次のような変化が見られた場合は、処置を受けた動物病院へ連絡するようにしましょう。
・動物病院から指示された時間を過ぎても食事をとれない
・口から出血が続く
・顔が腫れる
・元気がない
痛みの原因となっている歯を適切に処置すると、食べ方や活動性に改善が見られる場合があります。ただし、回復の程度や期間は、病変の範囲、併存する口腔疾患、年齢、全身状態などによって異なります。
また、処置を受けた歯とは別の歯に、新たな吸収病巣が生じることもあります。そのため、治療後も定期的に口腔内を確認し、必要に応じて歯科レントゲンによる再評価を行います。
乙訓どうぶつ病院では、痛みや食べづらさが目立つ前に変化を見つけられるよう、定期的なお口のチェック(歯科検診)を大切にしています。
「フードの食べ方が変わった」「お口周りを気にする」など、気になる変化があれば、小さなことでもお気軽にご相談ください。
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