肺吸虫症
呼吸器科
【病態】
咳がなかなか治まらなかったり、呼吸が浅く苦しそうに見えたり、以前より動きたがらなくなったりする様子に気づくと「年齢のせいだろうか」「一時的な体調不良だろうか」と悩まれる飼い主様も多いかと思います。
こうした生活の中での変化の背景に、肺吸虫症という寄生虫疾患が隠れていることがあります。
肺吸虫症とは、肺吸虫という寄生虫(メタセルカリア)が体内に侵入し、主に肺や胸腔の周囲に炎症や障害を起こす病気です。
この寄生虫は、河川や用水路などに生息するカニやザリガニなどの淡水性甲殻類に存在し、それらを生、または加熱が不十分な状態で摂取した場合に感染が成立します。
したがって、感染のきっかけとして多いのは、散歩中に野生のカニ、ザリガニ、またはそれらを餌としているカエルなどを口にして発症してしまうことです。
他にも、イノシシやシカの加熱不十分な肉から感染する例も多いです。
このように屋外での拾い食いや、野生の動物に対して狩猟本能から見られる行動を通じて感染するケースも報告されています。
体内に入った肺吸虫は、消化管から腹腔を経て肺の周囲へ移動します。
この移動の過程で組織に炎症が起こり、出血や胸水の貯留につながることがあります。
その結果、呼吸がしづらくなったり、胸部に違和感や痛みが生じたりする状態になります。
【症状】
肺吸虫症の感染初期は無症状ですが、その後慢性的な咳が見られ、合併症を起こした場合には重度の呼吸困難を起こすこともあります。
ただし、必ずしも呼吸器症状のみとは限らず、 以下のような全身状態にも変化が現れることがあります。
・元気がなくなる
・動きたがらなくなる
・食事量が減る
・胸やお腹の違和感から抱っこを嫌がる、横になる姿勢を避ける など
このような症状は、体調不良や他の疾患とも判別が難しいので、変化に気付いたら早めの受診と診断が必要です。
犬では咳や運動を嫌がる様子が目立ちやすい一方、猫も咳にくわえて「呼吸が速くなる」「じっと動かずうずくまる」といった静かな変化があらわれることもあります。
日常の中で、散歩に行きたがらなくなる、遊びへの反応が鈍くなる、呼吸の様子が気になる、触られるのを嫌がる、などの変化を感じた場合には注意が必要です。
【診断】
肺吸虫症の診断ではまず丁寧な問診を行います。これは非常に重要で、普段の食事内容や屋外での行動、拾い食いの経験がないかといった点は、診断の大きな手がかりになります。
画像検査ではレントゲン検査が重要な役割を果たします。
肺の中に見られる陰影の変化や、胸水の有無を確認することで、呼吸器の異常を把握します。
さらに必要に応じて、便検査で寄生虫の卵を調べたり、血液検査で炎症の程度を確認したり、CT検査で肺の状態を詳しく評価することもあります。
咳や呼吸異常は、他の呼吸器疾患でも見られるため、肺吸虫症と似た症状を示す病気と見極めることがとても大切です。
検査を組み合わせることで、適切な診断につなげていきます。
【治療】
治療の基本は、肺吸虫を駆除するための駆虫薬の投与です。寄生虫を確実に排除することで、炎症の原因を取り除いていきます。
咳症状が強い場合には、咳を和らげる治療や炎症を抑える治療を併用することがあります。
さらに、胸水が認められる場合には、呼吸を楽にするための処置が必要になることもあります。
体調や症状の程度に合わせて、負担をできるだけ抑えた治療計画を立てていきます。
治療期間や通院の頻度は状態によって異なりますが、途中で症状が軽くなったとしても、自己判断で治療を中断しないことが大切です。
最後まで治療を続けることで、再発や合併症のリスクを減らすことにつながります。
【予後】
肺吸虫症は、早期に発見し適切な治療を行えば、咳や呼吸状態の改善が期待できる病気です。元気や食欲が徐々に戻り、日常生活が安定してくるケースも少なくありません。
一方で、発見が遅れた場合には、心臓や肺の機能が著しく低下し、命の危険を伴う可能性もあります。
そのため、「少し様子がおかしい」と感じた段階で獣医師へ相談することが大切です。
再感染を防ぐためには、食生活の見直しや屋外行動への配慮が欠かせません。
生のカニやザリガニを口にしない環境づくりと、治療後も定期的に経過を確認することが安心につながります。
咳や呼吸の変化を感じたときは、早めに動物病院へご相談ください。
当院院長は、日本呼吸器学会や犬・猫の呼吸器臨床研究会などに所属し、専門的な検査と治療を行える体制を整えています。
また、拾い食いを防ぐためのしつけや、再感染を防ぐ視点での生活環境の整え方についても丁寧にお話ししています。
小さな変化の段階から一緒に確認し、治療後の生活まで見据えてサポートしていますので、不安なことがあれば当院にご相談ください。
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